1.遺言事項
遺言書に書く内容は基本的に自分で自由に決められ、何を書いても問題ありませんが(ただし公序良俗に反するようなことは当然除かれます)、書いたこと全てに法的に効力があるかというと実はそうではありません。
遺言書に書いたことが法的な効力を伴うものは「法定遺言事項」と呼ばれます。
一部ですが、次のものがあります。
◆遺産をだれに、どのように分け与えるか
◆婚外子の認知
◆遺言執行者の指定
遺言執行者について詳しくは<遺言を実現させる遺言執行者とは?そのメリットや権限>
◆保険金受取人の変更
保険金受取人変更について詳しくは<保険金受取人を遺言で変更する際の注意点と記載例>
◆5年を超えない期間での遺産分割の禁止
遺産分割の禁止について詳しくは<遺産分割を禁止することができるか>
◆遺言による信託の設定
◆相続させたくない相続人の相続権のはく奪(相続人廃除)
相続人廃除について詳しくは<相続権を奪う方法は?相続人廃除の解説>
◆祭祀承継者の指定
祭祀承継について詳しくは<お墓はだれが継ぐ?祭祀制度の解説>
◆特別受益の持ち戻しの免除
特別受益について詳しくは<特別受益とは?なにが特別受益にあたる?>
2.付言事項
法定遺言事項以外のことを遺言書に書いても法的な効力はありませんが、葬儀方法の指定やその希望、感謝の言葉などを付言事項として書いておくことはもちろんできます。
遺言内容によっては相続人間にあつれきが起きる可能性もあるため、それを防ぐためにもむしろ書いておくことをオススメします。
3.遺言能力
遺言書に書く内容が決まったら、実際に作成に移ります。
ただ、作成する前提として、遺言をする能力、「遺言能力」が必要になります。
そして、次の者は遺言能力がないため遺言をすることはできません。遺言能力のない者がした遺言は無効です。
◆判断能力・意思能力のない者(遺言書の内容を理解していない、自己決定できない精神状態)
◆15歳に達していない者
また、成年被後見人の場合は遺言作成時に判断能力が一時的に回復していることや医師2名以上の立ち合いなど一定の要件を満たしていないと有効な遺言はできません。
詳しくは<認知症でも遺言書を書ける?成年被後見人が遺言書を書くには?>
親権者や後見人などの法定代理人が本人を代理して遺言を作成することは当然できません。
4.遺言の種類
(普通)遺言の方式としては自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類がありますが実務上、主に次の2つの方式によって作成されています。
(1)自筆証書遺言
文字通り自筆で作成する遺言書です。つまり、遺言者が全文、日付、氏名を自書し、押印することです。これらがすべて調ったときに成立したとみられます。
たとえば、実際に遺言書を書いた日が5月1日、日付を記載した日が5月10日であれば、その遺言書は5月10日に成立したとみられます。
①自書
自筆なのでパソコン、ワープロでの作成や、コピーしたものは認められません。
本文にタイトル(遺言書、遺言など)がなくても問題ありません。
②日付
日付は遺言書作成日を特定するためにも重要な部分です。
日付は「令和〇年〇月〇日」とはっきりと書きましょう。「令和〇年〇月吉日」ではダメです。
「わたしの〇回目の誕生日」「自分の定年退職した日」などは有効とされますが、無用の混乱を避けるためには、はっきりとした日を書くことです。
③署名
氏名は、通称名、ペンネームも有効であり、氏と名が一方しかなくてもその者と特定できればよいとされますが、紛争予防のため、戸籍上の本名を書くことです。
④押印
印鑑は認印や拇印でも大丈夫ですが、証拠力の観点から実印を押しておくべきです。
書いた遺言書を封筒に入れておくことは遺言の要件ではありませんが、改ざん防止のため、封筒に入れて封をしておくことをオススメします。
自筆証書遺言の主なメリット、デメリットは次のとおりです。
<自筆証書遺言のメリット>
◆費用がかからない
紙とペンがあればいつでも気軽に、タダで作成することができるため費用はかかりません。
◆遺言内容を秘密にできる
誰にも見られることなく作成、保管できます。
◆簡単に書き直しできる
遺言書作成から遺言者が死亡し、遺言の効力が発生するまでは通常一定期間ありますが、その間に書き直したくなる事情がでてくる可能性もあります。自筆遺言であれば簡単に書き直すことができます。
<自筆証書遺言のデメリット>
◆無効リスクが高い
民法上の方式を満たせていないとして遺言書自体が無効になるおそれがあります。
◆発見されない、または隠ぺいされるおそれがある
相続人が遺言書の存在に気付かないで遺産分割協議をしてしまう可能性もあります。また、遺言書を保管している相続人が意図的に隠す可能性もあります。
◆偽造、改ざんリスク
自宅などに保管されていることが通常ですので、相続人などが内容を改ざんしてしまう可能性があります。
◆訂正方法が煩雑
訂正するには法律の方式を満たす必要があります。その方法は分かりにくく、面倒です。場合によっては最初から書き直したほうが良いかもしれません。
◆検認手続きが必要
自筆証書の場合は、家庭裁判所に検認申立てが必要になります。
詳しくは<遺言の検認とは?遺言書が見つかったらやるべきこと>
なお、法務局に遺言書を保管できる制度が2020年7月10日からスタートしましたが、法務局に保管した場合は検認手続きは不要です。
詳しくは<法務局で遺言書を保管してくれる?遺言書保管制度とは>
(2)公正証書遺言
遺言書を公証証書によって作成する方法です。基本的に公証役場に出向いて作成されます。
この方法による場合の主なメリット、デメリットは次のとおりです。
<公正証書遺言のメリット>
◆全文を自書する必要がない
自書する必要がないため、自筆遺言と異なり手の震えなどによって書けないなどで遺言者の負担はありません。
◆家庭裁判所の検認手続きが不要
公証人が関与するため、証拠保全手続きである家庭裁判所での検認は不要です。
◆紛失、改ざん、隠ぺいのおそれがない
原本が公証役場にて厳重に保管されますので、改ざんなどのリスクはありません。原本は20年間保管されます(ただし、実際のところ20年以上保管されます)。
◆遺言内容に疑義が生じたり、遺言書自体が無効になることがほぼ無い
法律のプロである公証人が関与しますので、記載の不備や、内容に疑義が生じるリスクはほぼありません。
◆出張制度がある
入院中や施設に入所している場合や、体力の低下で公証役場に行けない場合、公証人が入院先、入所先まで出張してくれます。ただし、作成手数料とは別に出張料がかかります。
<公正証書遺言のデメリット>
◆公証役場の作成手数料が掛かる
財産の価格にもよりますが通常、数万円ほどがかかります。
詳しくは<公正証書遺言の作成費用は?>
◆証人2名以上の立合いが必要
未成年者や相続人になる予定の者、受遺者など一定の者は証人になれません。それらの者が証人になった場合、遺言は無効になります。
◆遺言内容を秘密にできない
公証人、証人2名には当然内容を見られます。
◆公証役場まで出向く必要がある
原則、公証役場まで行って、その場で作成することが必要です。なお、前述のとおり、出張制度もあります。
5.オススメは公正証書遺言
やはり、遺言書作成において一番避けなければならないのは遺言書が無効になってしまうことです。
近時、遺言者の最終意思の尊重として、できるだけ遺言が無効にならないような裁判例がでていますが、それでもリスクはリスクです。
その点、法律の専門家が関与している公正証書遺言は、あとで無効になってしまうリスクが限りなく低いため(それでもゼロではありません)費用面や証人2名の用意が必要ですが、遺言者の最終意思が無効にならないよう公正証書遺言をオススメします。
なお、遺言のもう1つの方法として、秘密証書遺言がありますが、実務上はあまり(割合的にほぼ)利用されていません。