認知症でも遺言書を書ける?成年被後見人が遺言書を書くには?

相談事例

父は認知症を患っており、現在、施設に入所しています。

父は生活のすべてを介助に頼っており、日常会話についてはあまりできませんが、ごくたまに簡単な会話ができる時間帯もあります。

そのような状態ですが、もしものことを考えて家族で話し合い、父に遺言を書いてもらおう、ということになりました。

認知症の父でも遺言書を書くことはできますか。

1.遺言能力

遺言は法律行為であるため、遺言を書くには一定の能力、「遺言能力」が必要となります。

遺言能力のない者が書いた遺言書は無効です。

この遺言能力ですが、民法上は15歳以上であること、と定められています

15歳以上であれば、だれでも書けるのか。

相談事例では父親は15歳以上であるため、問題なく書けるのか、というところですが、遺言を書くには年齢要件にくわえて判断能力、意思能力を有していることも必要となります。

自らの意思で遺言書に何を書いているか、書いた内容を理解し、それによってどのような結果が起こるか、を認識している能力です。

そのような判断ができる能力、意思能力がなければ、遺言書を有効に作成することはできません。

15歳以上であっても、判断能力がなければ遺言は無効です。

したがって、事例の父親は、判断能力がない状態であれば遺言を有効に作成することはできません。

2.成年被後見人は遺言書を作成できるか?

認知症などによって判断能力を欠く状況になっている方に対して、成年後見人が選任されている場合があります。

では、その本人(成年被後見人)は遺言書を作成できるのか。

ここで、遺言能力の要件である判断能力の有無が出てきます。

成年被後見人は遺言書を原則、作成することはできません。判断能力を欠いているからです。

しかし、例外として、

①事理弁識能力を一時的に回復している

②医師2人以上の立ち合い

③立ち会った医師が、遺言者が遺言をする時に判断能力を欠く状態になかった旨を遺言書に付記して、署名押印をする

以上、すべてを満たすことを条件に、成年後見人であっても遺言書を有効に作成することができます。

3.高齢の方の遺言はトラブルになりやすい

裁判例などをみると、遺言書の有効性、特に本人の判断能力に疑問があり、無理やり書かせたのではないかなどで、相続人間で争いになるケースがあります。

遺言書に不満を持つ相続人としては、遺言書が無効になってくれた方が都合がいいわけです。

「父は高齢で、認知症なのだから有効に遺言書を書けないはず」

と言って有効性を争って裁判に発展する。

認知症を疑われる場合や、判断能力が衰えている状態の中では、ムリに遺言書を作成しないことです。

4.遺言を書く場合は公正証書遺言で

高齢の方が遺言書を作成する場合、自筆証書遺言ではなく、公正証書遺言での作成を強くオススメします。

自筆証書遺言は、基本的に本人しか関与する者がいないため、無効リスクが高いからです(たとえば日付の記入漏れによって無効となる場合)。

判断能力が衰えていない方の作成した遺言書であっても無効となるケースもあるため、高齢の方が作成した遺言書は尚更、無効リスクは高まります。

一方、公正証書遺言であれば、法律のプロである公証人の関与や、証人2名の立ち合いが必要なため、そのようなリスクもなくなります。

もっとも、公証人は医師ではないため、医学的見地から意思能力、判断能力があるかどうかを判断することはできません

そのため、遺言書作成前に医師の診断を受けておくことも重要になってきます。

ただ、最終的な判断は公証人にゆだねられるため、「遺言を作成できる判断能力はある」と診断された診断書があったとしても、必ず遺言書を作成してくれるわけではありません。

5.まとめ

事例のように、たとえ家族全員が同意していても親が認知症になってから遺言書を書くことは後々のトラブルの元になります。

また、認知症の方(成年被後見人)が遺言を作成するハードルは非常に高いです。

能力を一時回復したといえるかどうかの判断や、そもそも実際に遺言を書けるのか、といった問題があります。

「そのうち書く」「そのうち書いてもらう」ではなく

「今のうちに書いておく」「今のうちに書いてもらう」

といった意識付けをし、判断能力が低下する前の対応が重要になってきます。

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