相続権を奪う方法は?相続人廃除の解説

1.相続人廃除

相続権を失う制度としては、相続放棄が代表的です。

また、一定の事由がある場合に当然に相続権を失う相続欠格があります。

 

詳しくは<相続権がなくなる?相続欠格とは?>

 

そして、相続放棄、相続欠格以外に相続権を失う制度として、「相続人廃除」(排除ではありません)という制度があります。

これは、被相続人が生前に、推定相続人から虐待や重大な侮辱を受けたり、その他著しい非行があったときは、家庭裁判所の審判により、それらの行為をした相続人の地位を奪う制度です。

どうしても相続させたくない、遺産を渡したくない相続人がいる場合に取られる方法です。

2.相続廃除の対象者

遺留分のある相続人が対象となります。したがって、遺留分のない兄弟姉妹については廃除の請求ができません。

ちなみに、兄弟姉妹の相続権をはく奪したければ、遺言で相続分をゼロにするだけでよいので、特に不都合はありません。

兄弟姉妹は遺留分がないため相続分をゼロにしたとしても遺留分侵害請求をされることはないからです。

3.相続人廃除の方法

では、相続人廃除をするにはどうすればよいか、ですが、以下の2つ方法があります。

①家庭裁判所に相続人廃除を申立てる方法

生前に、家庭裁判所に対して廃除の審判を申立てます。

②遺言で廃除を定める方法

遺言で廃除を定めることもできます。

この場合、遺言の効力発生後、遺言執行者が家庭裁判所に廃除の申立てを行う必要があります。

なお、遺言で廃除をするためには、家庭裁判所の判断材料とするためにも単に「〇〇を推定相続人から廃除する」と簡潔に記載するのではなく、廃除に至った経緯、理由も記載しておいた方がよいでしょう。

4.相続人廃除の審判が確定すると

家庭裁判所の審理の結果、廃除の審判がされ、その審判が確定すると以下の効果が生じます。

相続権を失う

家庭裁判所への申立てで廃除した場合は、審判が確定したときから、また、遺言による廃除の審判が確定した場合は、さかのぼって相続開始のときから相続権を失います。

遺留分を失う

相続権を失うと同時に遺留分も失います。遺留分は相続権を前提とした権利だからです。

よって、廃除者の相続分は完全にゼロとなります。

廃除の旨が戸籍に記載される

相続人廃除が認められ、審判が確定すると、廃除されたことが戸籍に記載されます。相続手続きでは戸籍が必要になるので、簡単に廃除の事実が確認ができます(相続放棄の場合は、その旨が戸籍に載ることはありません)。

代襲相続はできる

同じ相続権を失う相続放棄と異なり、代襲原因となります。

相続廃除された者に子(被相続人からみて孫)がいれば、被相続人を代襲相続することができます。

もっとも、その代襲相続人であるその孫が未成年の場合は問題があります。

廃除された元相続人が親権者という立場で、財産を実質的に管理(支配)可能な場合は、孫が代襲相続したとしても事実上、廃除の効果が得られない可能性があります。

5.廃除の取り消しはできる

確定した相続廃除を取り消したい場合は、家庭裁判所に廃除取消の申立てをすることによって、取り消すことができます。

廃除後に事情が変わることも可能性としては(限りなく低いでしょうが)あるためです。

また、遺言でも廃除の取り消しができます。

この場合、廃除するのと同様に、遺言の効力発生後、遺言執行者が家庭裁判所に廃除取消の申立てを行う必要があります。

6.廃除は認められにくい

この相続人廃除、相続人の相続権を強制的にはく奪するため、非常に影響が大きい制度です。

つまり、廃除はそうそう認められない、ということにつながります。

家庭裁判所への廃除の申立て自体は、被相続人の自由な意思でできますが、以下のような事情や背景、可能性もあるため家庭裁判所は廃除をすることに慎重な姿勢で臨んでいます。

◆被相続人の一時的な感情による場合もある

たとえば、一時的に子と言い争いをしたため、気に食わないから廃除する、自分の考えに背いたから廃除する、などです。

◆日常的ではなく、一過性の場合もある(非行行為に継続性がない)

常日頃、虐待などが行われていない、恒常的なものではなく一過性の場合は認められにくいです。

◆侮辱や虐待を被相続人自ら誘発した場合もある

原因が相続人だけでなく、被相続人にも何らかの原因がある場合もあるでしょう。申立てに至った背景を綿密に調査、審査して慎重に判断します。

7.安易に認めてしまうと

相続権を奪うに値するほどの侮辱や著しい非行を客観的に立証する必要もあり、なかなか簡単ではありません。

実際に廃除が認められる可能性は低いのが現状です。

申立てを受けたとして、それで安易に廃除を認めてしまうと、被相続人が相続権を簡単に左右できることになり、被相続人の権限が大きくなりすぎます。

また、被相続人と相続人の間で無用の争いを招く可能性もあります。

そのため、家庭裁判所は他の審判にくらべ、相続人廃除に関してはより一層、慎重にならざるを得ません。

8.相続人廃除の代わりとして

相続権を奪うほどではありませんが、廃除に代わる手段として、以下の方法を検討してもよいでしょう。

◆遺言書を書いておく

遺留分の問題があるため、相続分を完全にゼロにすることはできませんが、一定の効果はあります。

◆生前贈与しておく

生前に贈与しておき、相続財産をあらかじめ圧縮、減らしておくことです。ただし、贈与税の問題や、相続人に対する生前贈与は遺産の前渡しとして特別受益と主張される可能性があります。

特別受益について、詳しくは<特別受益とは?なにが特別受益にあたる?>

9.まとめ

相続廃除は被相続人の自由な意思で特定の相続人の相続権をはく奪する制度です。

遺言で廃除する旨を書いておくこともできます。

もっとも、及ぼす影響が大きく、主観的な要素が強いため家庭裁判所も判断により慎重にならざるを得ません。

相続人廃除ではなく、ほかの手続きや方法も検討してみることをオススメします。

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