1.遺言執行者を指定しておくこと
「遺言を書けば一安心」
そう思うところかもしれませんが、遺言は書いただけでは終わりとは言えません。
なぜなら、書いた内容が現実に執行されてはじめて、遺言者の最終意思が実現された、と言えるからです。
書いたそのあとに自動的に遺言の内容のとおりになるわけではなく、別途、遺言を執行する手続きが必要になります。
そのために、弊所では遺言書であらかじめ「遺言執行者」を指定しておくことをオススメしています。
遺言執行者をあらかじめ指定しておけば、迅速に遺言内容を実現させることが期待できるからです。
遺言で遺言執行者を指定していない場合は、遺言の効力発生後、家庭裁判所に遺言執行者選任申立てを行うか、そうでなければ相続人全員が手続きに関与(相続人の協力)することになります。
2.受遺者自身は手続きできない?
では、遺言で遺言執行者を指定している場合、もしくは家庭裁判所で遺言執行者を選任してもらった場合。
ここでたまに受けるご質問として、
「遺言執行者がいると受遺者(遺贈を受ける者)自らは手続きはできないのか(できなくなるのか)」
というものがあります。
中には、受遺者自ら銀行で遺言書にしたがった手続きを行おうとしたところ、「遺言執行者が指定されているから、その者でなければ手続きに応じられない」と言われるケースもあるようです。
当然、これは間違いであり、受遺者自らも有効に手続きを行うことができます。
3.遺言執行者しかできない手続きも
遺言執行者がいる場合であっても、受遺者自らで遺言執行手続きをできますが、中には遺言執行者にしかできないものもあります。
それは、遺言書において、
・相続人廃除
・認知
について書かれている場合です。
遺言執行者自らで家庭裁判所や役場にそれらの手続きをする必要があり、受遺者が行うことはできません。
相続人廃除について詳しくは<相続権を奪う方法は?相続人廃除の解説>をご覧ください。
4.登記手続きは遺言執行者が
登記手続きにおいては注意点があります。
遺贈を原因とする名義変更登記は、利益を受ける受遺者が「登記権利者」となり、遺言執行者が「登記義務者」として共同で登記申請する必要があります。
※令和5年4月から、受遺者が相続人の場合に限り、受遺者単独での登記申請が可能となりました。第三者への遺贈登記に限って共同申請となります。
なお、遺言執行者がいない場合は、遺言者の相続人全員が登記義務者として手続きに関与する必要があり、相続人全員の実印や印鑑証明書を要します。
遺贈登記について詳しくは<申請人は?必要書類は?遺贈による所有権移転登記の解説>をご覧ください。
5.まとめ
遺言で受遺者がそのまま遺言執行者となっているケースが比較的多いのですが、専門家が遺言執行者に指定されている場合など、受遺者と遺言執行者が違うといったこともあります。
専門家が遺言執行者となっている場合は、その者がすべての手続きを行うことが想定されます。
一方で、専門家ではない一般の方が遺言執行者となっている場合は、受遺者自らで手続きを行う場面もあるかもしれません。
例外はありますが、基本的に受遺者自らが(単独で)手続きを行うことはできます。
ただ、遺言内容や手続き先(金融機関など)によっては遺言執行者の関与を強く要請されるケースもあるため要注意です。
遺言執行者が法律の専門家ではなく、一般の方である場合は、迅速な対応が期待できないこともあります。
その場合は、遺言執行者から専門家に手続きを委任する方法もありますので、遺言内容の実現が滞っているのであれば、いっそのこと専門家に遺言執行業務の委任することもオススメします。