公正証書遺言作成後に住所変更、作り直す必要があるか?

相談事例

この度、有料老人ホームに入所することになったのですが、そこの規則で今の住所をホームに変更する必要があります。

ところで、私は3年前に公正証書遺言を作成したのですが、この場合、公正証書遺言を作成した公証役場に住所変更の届け出などは必要になるのでしょうか。

それともはじめから公正証書遺言を作り直さなければならないのでしょうか。

1.公正証書遺言作成後に住所変更

遺言の効力が発生(遺言者の死亡)するのが公正証書遺言を作成してから数年先、といったことは珍しくはありません。

その間に、遺言の内容を変更したい、事情が変わったため書き直したいといったこともあることでしょう。

その場合は遺言の撤回といった方法があります。詳しくは<遺言は取り消せる?撤回方法は?>をご覧ください。

もっとも、遺言の内容の変更ではなく、相談事例のように単に「住所が変わった」といったことがあります。

仕事の都合上や、施設に入所したため施設の方に住所変更しなければならない場合など、転居、異動理由は様々です。

この場合、公正証書遺言を作成した公証役場に住所変更の届け出や、もっと言って公正証書遺言の作り直しが必要になるのでしょうか。

2.住所が変わっても届け出や作り直しは不要?

結論から言って、公正証書遺言作成後に、住所を変更したとしても、公証役場にその旨を届け出る必要はありませんし、作り直す必要もありません。

なぜなら、遺言は遺言者の意思を尊重するものであるため、単に住所が変わったところで遺言内容自体が影響を受けることはないからです。

このまま放っておいても遺言が無効になるといったことはないため、特別なにかをする必要はありません。

もっとも、住所移転を機に遺言内容を今一度、見直すといった作業は有用です。

3.氏名変更は?

住所が変更しても公正証書遺言の効力に影響はなにもありませんが、では氏名はどうか。

氏名も上述の住所変更のケースと同じように、たとえ変更したとしても公証役場への届け出や作り直しなどは不要です。

4.遺言執行時にあたっての注意点

以上のとおり、住所を変更(氏名を変更)したとしても公証役場への届け出や公正証書遺言の作り直しなどはしなくてもよいのですが、1つ注意点があります。

それは、遺言を執行する時(遺言に書かれた内容を実際に実現させること)に、遺言を書いた人と死亡した人の同一性を証明する必要性が出てきます(この問題は自筆証書遺言でも同様です)。

遺言執行にあたって、法務局や銀行などの提出先から「住所(氏名)が違うけど、本当に故人が書いた遺言なのか」といった疑問が出てくるからです。

その場合ですが、住民票の除票や戸籍謄本などの公的証明書で同一性を証明することができるので、問題はありません。

住民票の除票で住所の変遷を、戸籍謄本で氏名変更を証明することができます。

なお、住所変更の場合の注意点。

遺言を作成後、住所を何度も変更しているケースにおいては、住民票の除票では住所の変遷をすべて確認、証明できない可能性があります。

この場合ですが、本籍地を変えていないのであれば、通常は戸籍の附票によって住所の変遷を確認、証明することができます。

ただし、戸籍の附票でも住所の変遷を確認、証明できないことがあり、その場合は別の方法を検討する必要があるので、専門家に相談することをオススメします。

5.まとめ

公正証書遺言を作成後、遺言者が住所変更をすることは珍しくありません。理由は様々ですが、施設に入所する際に住所移転も求められるケースが比較的多いです。

もっとも、遺言書の作成以降、住所が変わったとしても、公正証書遺言の効力に影響はまったくありません。

住所が変更しただけで、遺言者の「遺言意思」そのものが変わっているわけではないからです。

ただ、住所(氏名)変更をきっかけに、遺言内容を再確認し、場合によってはその時の状況に即した内容で作成し直すことはあってもいいかもしれません。

関連記事