法務局で遺言書を保管してくれる?遺言書保管制度とは

1.自筆証書遺言のデメリット

自筆証書遺言は、手間も費用もかからないため、いつでも手軽に遺言書を作成することができます。

しかし、この自筆遺言書には以下のデメリットがあります。

◆保管場所を忘れてしまうおそれ

作成から長期間経過すると、どこに保管したかを忘れてしまうこともあります。

◆隠されるリスク、改ざんのリスク

不利な扱いを受ける相続人によって、遺言書自体を隠される、内容を改ざんされるリスクがあります。

◆死亡後に発見されないおそれ

探しても見つからない場合や、そもそも相続人が遺言書の存在自体知らないといったことも考えられます。

◆家庭裁判所で検認手続きが必要

家庭裁判所に必要書類を揃えたうえで、検認手続きが必要になります。

 

詳しくは<遺言の検認とは?遺言書が見つかったらやるべきこと>

2.遺言書保管制度の開始

自筆証書遺言はお手軽に作成できますが、以上のとおりデメリットも多いです。

これらのデメリットを回避するためには公正証書遺言があります。

 

詳しくは<遺言書には何が書ける?作成方法やメリット、デメリット>

しかし、公正証書遺言は面倒、できるだけ費用をかけたくない、と思う方もいるかもしれません。

そこで、自筆証書遺言のリスク、デメリットを回避、予防するために、法務局に対して自筆遺言書を保管してもらう制度が令和2年7月10日から開始しました。

法務局に遺言書保管を申請すると、

◆遺言書の原本

◆それをデータ化した画像

を一定期間、保管してくれます(令和2年7月10日以前の日に作成された遺言書であっても、保管申請は可能です)。

以下、この制度を利用する場合の手順、流れを解説します。

3.遺言書保管の申請先

まずは、作成した遺言書を保管してもらうため、法務局に申請します。

申請先法務局は以下の中から、遺言者が好きな場所を任意に選択できます。

 

①遺言者の住所地を管轄する法務局

②遺言者の本籍地を管轄する法務局

③所有する不動産の所在地を管轄する法務局

 

なお、既に遺言書を保管していて、追加で遺言書の保管をする場合は、すでに保管している法務局に申請する必要があります(つまり複数の遺言書の保管申請ができるということです)。

遺言書を保管する法務局のことを「遺言書保管所」といいますが、すべての法務局が遺言書保管所とはなりません。

法務大臣が指定した法務局のみが対象です。

千葉県では以下の法務局が取り扱います。

本局、市川支局、船橋支局、館山支局、木更津支局、松戸支局、香取支局、佐倉支局、柏支局、匝瑳支局、茂原支局

なお、手続き前には法務局へ予約を入れる必要があります。

4.遺言書の保管を申請できる者は

保管を申請できる者は遺言者自身です。

この申請は、必ず本人が法務局に出向いて申請する必要があります。

郵送での申請や、代理人による申請も認められません。

これは、申請時に法務局で本人確認が行われるためです。

また、公正証書遺言であれば公証人が入院先などに出張してくれる制度がありますが、この遺言書保管制度においては、そのような規定は現在のところありません。

したがって、入院している場合や、体力的な問題で法務局まで出向くことができなければ、この制度を利用することはできませんので、公正証書遺言の利用を考える必要があります。

5.申請に際して必要なものは

申請に際しては、保管申請書と遺言書の原本、本人確認できる顔写真付き身分証明書(運転免許証など)が必要です。

この場合、遺言書に封をしてしまうと中身を確認することができないため、遺言書には封をしないことです。

また、この制度は自筆証書遺言、を保管する制度なので、公正証書遺言・秘密証書遺言の保管を申請しても却下されます。

6.遺言書保管手数料

遺言書の保管はタダではありません。

保管申請や、閲覧を請求する場合には一定の手数料がかかり、収入印紙で納めます。(法務省ホームページ)

7.保管期間は

法務局は永久に遺言書を保管するわけではありません。その期間が決まっています。

①遺言者の生死が不明・・・遺言者の出生日から120年間

②それ以外(通常の相続)・・・遺言者の死後50年間(画像データは150年間

これらの期間経過により、遺言書原本を破棄し、コンピューター上の画像データが消去されます。

8.遺言書の閲覧

閲覧は、遺言書原本を閲覧するか、モニターにて閲覧する方法があります。

遺言者

遺言者はいつでも保管している遺言書原本の閲覧を請求できます。

ただし、遺言者の生存中は遺言者のみが閲覧請求できます。

この閲覧請求は、保管申請と同様に遺言者自らが保管を申請した法務局に出向いて行う必要があります。

モニターにて閲覧する場合は、どこの法務局であっても可能です。

遺言者以外の者

以下の者は遺言者の死後に限り、遺言書原本を閲覧できます。

①死亡した者の相続人

②遺言書で受遺者と記載された者

③遺言書で遺言執行者と指定された者

9.遺言書保管の撤回

遺言者はいつでも遺言書保管の申請を撤回できます。

遺言書作成後に気が変わったり、財産状況に変動があったり、受遺者との関係性に変化があったりなど、遺言書を撤回したい、作り直したいといったことはあります。

その場合にあっては、いつでも保管申請の撤回ができますので、保管申請の撤回をしてから作り直すことが可能です。

保管しているから遺言書の撤回や作り直しができない、といったことはありません。

撤回により遺言書の原本が返還され、画像データは消去されます。

しかし、撤回するためにも法務局に出向く必要があります。

10.遺言書保管の有無の確認は

遺言書がそもそも法務局に保管されているかどうか、分からないといったことも起こりえます。

その場合は、「だれでも」保管の有無および保管されている場合は、その遺言書に記載されている作成年月日、保管されている法務局を証明した書面の交付請求ができます。

これを「遺言書保管事実証明書」といいます。

ただし、遺言の内容までは分かりません。あくまで保管の有無の事実を確認するだけです。(法務省ホームページ)

11.遺言書にしたがって相続手続きを行いたい場合は

遺言書原本は法務局に前述の期間、保管されることになるため、実際に相続手続きを行うにはそれに代わるものが必要になるので、「遺言書情報証明書」という書面を請求します。

この遺言書情報証明書が、遺言書原本に代わる書面として名義変更など各相続手続きに使用することができると考えられます。

しかし、だれでも請求できるわけではなく、請求できる者はあらかじめ規定されています。

主な請求権者は以下の者になります。

①遺言者の相続人

②受遺者

③遺言で指定された遺言執行者

12.保管の通知制度

前述の閲覧請求や遺言書証明情報の交付請求をすると、法務局から他の相続人などに遺言書が保管されていることが通知されます。

したがって、他の相続人などに隠して、遺言書の存在がバレないように動こうとしても分かります。

13.保管制度のメリット、デメリット

この保管制度ですが、メリットだけではなくデメリットもあります。

保管制度のメリット

◆保管場所に頭を悩まさなくてよい

法務局で一定期間保管してくれることがこの制度の主目的となります。

◆隠ぺいや改ざんのおそれがない

原本が保管されているため、不利な扱いを受ける相続人などから、隠ぺいや改ざんがされるおそれはありません。

◆検認手続きが不要(相続手続きに早期に進める)

法務局に遺言書が保管されているため、改ざんのおそれはなく、証拠保全手続きといえる家庭裁判所での検認手続きをとる必要はありません。

検認手続きが必要になると、その書類集めから、申立、審判までにかかる期間は一般的には1か月程度かかってしまい、相続人の負担となっていました。

この制度を利用すれば検認手続きが不要になるため、余計な費用や時間を費やす必要がなくなり、その分早く相続手続きに進むことができます。

保管制度のデメリット

◆法務局まで出向く必要がある

遺言者自ら法務局まで出向く必要があります。

本人確認を厳格に行う必要があるためです(顔写真付きの身分証明書は必須です)。

郵送申請や代理人申請も認められませんので、遺言者が高齢で、施設に入所している、入院しているなどの事情があり、出向くことができなければ現在のところ、この制度を利用することはできません。

◆遺言書保管に一定の手数料がかかる

手数料については前述のとおり、一定の金額がかかってしまいます。

◆内容については自己責任

この制度はあくまで遺言書を「保管」するだけの制度です。

その内容自体について有効であることを認めてくれるわけではありません。

保管されていても、後日、遺言書の内容、解釈について争いが起こる可能性もあります。

「法務局に保管されたから遺言書の内容にお墨付きをもらった」とはならないので要注意です。

14.まとめ

この遺言書保管制度が一般に普及し、広く利用されていけば、遺言書が作成される機会がますます増えてくることが予想されます。

しかし、それにはこの制度が使いやすく、うまく機能していくことが前提となります。

そのためには制度の趣旨、内容、利便性などについて国民に対し周知を図っていく必要があります。

 

「遺言書が保管されているのに、気づかれず相続手続きが進められた」

「遺言書の存在を知らず遺産分割協議を行った」

「よく分からないし、面倒」

 

といったことが頻繁に起こっては逆に無用の混乱を招くだけです。

今後、「相続が発生したら、まずは遺言書保管事実証明書の請求をしてみよう」といった意識付けが重要になってきます。

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