事例
Aが死亡し、相続人は長女B、次女C、長男D(法定相続分は各3分の1)
A所有の建物にBが無償で同居していたが、A死亡後もBがそのまま無償で使用しているためC、Dが退去を要求してきた場合、Bは退去しなければならないか?
C、Dの要求は認められるのか?
また、Bは、C、Dに賃料相当額を請求された場合、応じなければならないか?
1.相続財産である建物の使用
事例のように、被相続人亡き後、同居していた子供に対して他の相続人から退去するよう要求されることがあります。
このような場合、最高裁判例は、
「Bは、遺産分割が成立して建物の所有権が確定するまでは無償で建物を使用できる」
ことを認めて、C、Dからの退去請求を拒むことができる、と判断しました。
Bの法定相続分は3分の1ですが、C、D合わせると3分の2となり、過半数を超えるため(多数決で)退去要求に応じなければならないようにみえますが、Bは共有物である建物の全部について、自己の持分に応じて使用、占有する権利を有しています。
つまり、Bは、3分の1とはいえその建物を使用できる権限があり、使用できる権限があるということは退去に応じる必要もない、ということです。
したがって、C、Dからの退去要求を拒むことができます。
2.賃料相当額の請求も認められない
最高裁判例によれば、「Bは、遺産分割終了までの期間の賃料相当額を支払う必要はない」としていますので、C、Dからの賃料相当額の請求も拒むことができます。
AとBの間で建物を無償で使用させる合意があったと推認されるからです。
同居相続人に配慮した判決といえます。
ただし、そのような推認を覆すような特別な事情(Aが、Bに無償で使用させることを明確に否定していたなど)があれば賃料相当額を支払う必要があります。
3.特別受益にはあたらない
なお、Bが無償で居住していたとして、それまでの賃料相当額が特別受益にあたるとして遺産分割で調整されるか、Bの相続取り分が減少するかが問題となります。
特別受益は相続人に対する贈与などで遺産を減少させること、遺産の前渡しにあたります。
ここで、Bは無償で建物に居住しているので、それが特別受益にあたるのではないか。
しかし、次の理由で特別受益にあたりません。
◆そもそも遺産は減少していない
建物に居住、同居しても遺産である建物自体(の価値)は減少しません。
◆扶養義務の範囲内といえる
被相続人と同居相続人との関係性や同居相続人の経済力にもよりますが、家族を自分の家に住まわせることは一般的に考えて扶養義務の範囲内といえます。
また、同居はしていたが、それが被相続人の介護や被相続人に頼まれて同居していた場合なども考えられます。
そのような場合にまで特別受益とすることは同居相続人にとっては酷となります。
◆賃料相当額が特別受益にあたると居住期間によっては相当な額になってしまう
仮に何十年と同居していた場合、その期間の賃料相当額を考えると相当高額になることが予想されますが、その額が特別受益となってしまうと、実質、相続できるものがなくなる(相続分がゼロになる)可能性があります。
そのような結果は相続人間の公平性を害しますし、トラブルに発展する可能性があります。
4.まとめ
以上、同居相続人の居住権をみてきました。
原則は、遺産分割で相続人が確定するまでは、退去する必要はありません。
また、同居していたことによりそれが特別受益を得ていたと判断されることもありません。
同居相続人が遺産分割後もそのまま住み続けるには、自らが自宅所有権を相続するか、自宅所有権を相続した他の相続人との間で賃貸借契約(もしくは売買契約)を結ぶことになるでしょう
なお、子供に対しては、配偶者居住権のような制度はありません。
配偶者居住権について詳しくは<配偶者はそのまま住み続けられる?配偶者居住権とは>