相続放棄すると生命保険金はもらえない?死亡退職金は?

1.相続放棄をしても相続財産でなければ取得できる

相続放棄をすると、その者ははじめから相続人となりませんが、相続放棄により、何も取得できなくなるかというと、実はそうではありません。

たとえば次の場合は相続放棄をしていても取得することができます。

(1)生命保険金の受取人になっている場合

被相続人を被保険者とする生命保険契約の保険金の受取人となっていた相続人が相続放棄をしたとしても、その相続人は生命保険金は受け取ることができます。

「相続放棄をしたのに受け取れるの?」と驚かれるかもしれませんが、生命保険金は被相続人の死亡後に発生する権利であるため相続財産を構成しません。

つまり、受取人固有の権利として請求できるものなので、相続放棄の影響を受けないのです。

ただし、生命保険金は相続税法上は「みなし相続財産」として相続税の課税対象となります。

場合によっては生命保険を受け取った放棄者は、相続放棄をしているが相続税は支払う必要が出てくる可能性があります(相続放棄者は生命保険金の非課税枠を使うことができません)。

なお、受取人が被相続人になっている場合、それは相続財産を構成しますので、相続放棄した場合は、一切受け取ることができません。

(2)遺族年金がある場合

遺族年金の受給権も相続財産ではなく遺族が固有の権利に基づいて受給するものですので相続放棄をしても受け取ることができます。

(3)未支給年金がある場合

未支給年金(※)は厳密にいえば被相続人が本来、生前に受け取るべき権利であるため、相続財産といえます。

したがって、「相続放棄をすると受け取れない」となりそうですが、国民年金法19条1項では未支給年金については配偶者や子など生計を同じくしていた一定の者は「自己の名で」請求できると規定しています。

「自己の名で」ということは、相続人が独自の権利として請求できるということです。したがって、受取人固有の権利として、相続放棄をしていても受け取ることができます。

(※未支給年金とは、年金受給者がまだ受け取っていない年金です。年金は偶数月に前月と前々月分が支給されますので、支給前に死亡すると受け取れるはずだった年金が未支給年金として発生します)

2.死亡退職金はどうか?

勤め先の死亡退職金については、相続放棄しても受け取れる場合もあるが、受け取れない場合もあります。

どういうことかというと、まずはその勤め先の就業規則など(退職金規定)を確認する必要があります。

そこに、「死亡退職金は遺族に支給する」といった規定になっていれば、それは相続人固有の財産なので、相続放棄をしても受け取ることができます(もっとも、規定の書きぶりによっては別途、検討を要するケースもあります)。

一方、受取人についての規定がない場合は相続財産となる可能性が高く、相続財産と判断された場合は相続放棄により受け取れなくなります。

また、死亡した本人が受取人として規定されている場合は相続財産となり、相続放棄により受け取れなくなります。

なお、被相続人が公務員の場合は、法律(国家公務員退職手当法)で死亡退職金は遺族に支給する旨が定められていますので、相続人固有の財産となり、相続放棄をしても受け取ることができます。

3.保険金を受け取っても相続放棄はできる?

なお、前述の生命保険金などを受け取ったとしても、それが相続財産にはあたらないのであれば、法定単純承認としての「相続財産の処分」にはあたりません。

したがって、生命保険金などを受け取った後であっても相続開始後3か月内であれば相続放棄をすることができます。

相続財産にあたるのに受け取ってしまうと、場合によっては法定単純承認にあたる可能性もありますので慎重に判断しましょう。

なお、相続放棄をする予定なのに受け取ってしまった場合は、受取金には手を付けずに、管理用の口座を開設して、その口座に保管しておくことです(単に受け取っただけであれば、法定単純承認と判断されることは通常はありません)。

4.まとめ

以上のとおり、保険金などが受取人固有の財産であれば、相続放棄をしていても受け取れますし、受け取っても(使っても)相続放棄できます。

 

詳しくは<相続放棄により受け取れない財産、相続放棄しても受け取れる財産>

 

相続財産にあたるのに受け取ってしまった場合は使わずにちゃんと保管しておきましょう。

使ってしまっては相続放棄ができなくなりますし、できたとしてものちのち債権者から指摘され、相続放棄が否認されるおそれもあります。

請求、受け取る前に、まずは保険契約や就業規則の内容を確認してみることです。

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