借金だけを相続放棄できる?

相談事例

私の父が、多額の借金を残して亡くなったのですが、とても私たち相続人に支払える額ではないため、相続放棄を考えています。

ただ、私と母は父名義の自宅に住んでいるのですが、自宅は手放したくないです。

この場合、自宅だけ手元に残して相続放棄することは可能でしょうか。

1.借金(債務)だけを放棄は?

被相続人が多額の借金や未払い税金、未払い保険料など、債務を残して死亡することは珍しいことではありません。

ただ、同時に不動産や車、預貯金など、プラスの財産も残していることも当然ながらあります。

この場合、相談事例のように自宅を相続して、借金だけを放棄することはできるかどうかですが、結論から言うと、借金のみの相続放棄はできません。

相続放棄をすると、はじめから相続人ではなくなり、被相続人の一切の権利・義務を相続しません。

したがって、そもそも放棄者において相続したい財産、相続したくない財産を自由に選択できないのです。

いいとこ取りはできません。

仮にそのようなことを認めると、相続人を過剰に保護してしまいます。

どれが放棄されてどれがされていないか、となる法律関係が複雑になり、また、債権者の利益を害すことにもなります。

預金や自宅を相続しときながら借金は放棄されて返済を受けれないとなると、当然、債権者は納得できないでしょう。

また、被相続人が他人の保証人となっていた場合。

相続人は被相続人の負っていた保証債務を相続しますが、相続人はその保証債務だけを放棄することはできません。

 

詳しくは<保証人の地位は相続される?相続税との関係は?>

 

相談事例においては、自宅だけを残して相続放棄をすることはできません。

相続放棄をしたあとに自宅にそのまま住む方法もなくはないですが、お金もかかりますし、可能性としては低いです。

 

詳しくは<相続放棄をしても自宅にそのまま住む方法は?>

2.遺産分割で決めても・・・

なお、遺産分割において、借金を相続しない人・借金を相続する人、を決めることはできますが、それは相続人の中だけで有効な話です。

あくまで内部的な取り決めに過ぎません。

外部の人間である債権者にとっては相続人間の話し合いなど、まったく関係のないことなのです。

債権者に対して、

「自分は遺産分割で借金を相続しないことになった」

「遺産放棄したから借金は払わない、払わなくてもよいはず」

と主張しても、債権者には対抗できません。

 

詳しくは<相続放棄と遺産放棄の違い>

 

もっとも、債権者が遺産分割の内容(借金の負担者、負担割合など)を承諾すれば、債権者は遺産分割の内容にしたがう必要があります。

3.自宅を売却して返済も

相続放棄をすると自宅も手放すことになり、その他預貯金なども一切相続できません。

もっとも、自宅の売却価格が借金総額を上回るようであれば、相続放棄をしないで、いっそのこと自宅を売却してしまって、その代金で借金を返済する手もあります。

そうすれば、相続放棄をしてまったく財産を相続しないよりかは、いくばくかのお金が残る可能性もありますし、自宅以外の財産があれば、それらも相続できます。

1つの選択肢として、検討してもよいかもしれません。

その場合は換価分割を行うことになります。

 

相続した自宅の換価分割事例につて詳しくは<実家を相続した兄弟の換価分割の事例>

4.まとめ

相続放棄はすべての権利義務を絶対的に放棄することです。

したがって、都合よく借金だけを放棄することはできませんし、残したい財産を決めることもできません。

相続放棄をする場合は十分に検討し、慎重に判断することをオススメします。

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