相続放棄をしても自宅にそのまま住む方法は?

相談事例

夫が先月亡くなったのですが、夫に多額の借金があることが分かりました。

それはとても返済できる金額ではありません。

困っていたとこと、最近、知り合いから「家庭裁判所で相続放棄という手続きがある」「それをすれば借金がチャラになる」と聞いたのですが、この相続放棄をした場合、今住んでいる夫名義の自宅を出ていかなければならないのでしょうか。

何十年と住んでいる家なので、どうしてもこのまま住み続けたいのですが、相続放棄してしまうと住むことは難しいでしょうか。

1.相続放棄をしても家に住む方法はある?

相続放棄により、はじめから相続人とはならなかったとみなされ、被相続人のすべての財産を相続しません。

多額の借金が原因で相続放棄することになった場合、夫名義の自宅であれば、その自宅も当然ながら相続することはできません。

したがって、借金をチャラにすることはできますが、相続放棄後も自宅に住み続けることは(法律上は)基本的にできませんので、事例の妻は、相続放棄した場合は出ていかなければなりません。

ただし、住む方法がまったくないわけではありません。可能性は低いですが場合によっては住み続けることはできます。

相続した他の相続人(所有者)から借りる

他の相続人が自宅を相続しているのであれば、その者から賃貸する方法があります。そのまま妻が住み続けることが自然でもあるため、条件次第でしょうが、親族の間柄であれば、交渉し易いのではないでしょうか。合意できる可能性はあります。

もっとも、相続放棄をしているということは、被相続人には多額の債務があるということが通常ですので、同じように他の相続人も相続放棄している可能性が高いです。

そして、次順位者に相続権が移った場合、普通であればその次順位者も相続放棄をすることでしょう。

したがって、他の相続人から賃貸することは、交渉の成功率は高いかもしれませんが、そもそもそのうような場面があるのかというと、現実的に考えてあまりないのではないかと思います。

相続財産管理人から自宅を買う

可能性としてあるならば、相続財産管理人から自宅を買うことです。

たとえば、相続人全員が相続放棄した場合、相続人不存在となり、相続債権者(被相続人にお金を貸した人のこと)などからの申立てにより相続財産管理人が選任される場合があります。詳しくは<相続人が1人もいないときはどうなる?相続財産管理人とは?>

相続債権者としては、当然、少しでもお金を返して欲しいと考えます。そのため法律上、有効に清算手続きを行ってくれる人を家庭裁判所に選任してもらうのです。

相続財産管理人の職務は、被相続人の財産を売却などにより処分し、その代金を債権者の支払いに充てます。

そのため、相続財産管理人と交渉し、相続放棄した妻が自宅を買い戻すことも場合によっては可能です。

また、相続財産管理人がまったく別の第三者に売却したとしても、その買主との交渉によっては買い戻すことができるか、もしくは賃貸できる可能性もありますので、ダメもとでトライしてみることです。

ただ、相続財産管理人の選任スケジュールですが、まず

①相続が開始

②相続人全員が相続放棄を行う

③相続債権者などの利害関係人から相続財産管理人選任申立てがされる

④審判を経て選任される

といった流れになりますが、そこまでに要する日数は相当長期間におよびます。

そこから実際に職務にとりかかるまでには、早くても1年半、通常は2年ほどかかるのが通常です。

なお、相続人全員が相続放棄をしている場合、相続財産管理人が選任され、その者が実際に相続財産を管理できるようになるまで、相続放棄者は相続財産の管理義務を引き続き負いますので、要注意です。詳しくは<相続放棄をしても空き家は管理しなければならない?>

2.まとめ

基本的には相続放棄により、今まで住んでいた被相続人名義の自宅を出ていかなけれなりません。

ただし、自宅の所有権を取得した相続人もしくは第三者との交渉次第では、費用はかかりますが引き続き住むことができる可能性もありますので、どうしても住み慣れた家、慣れ親しんだ土地を離れたくないのであれば、まずはアクションを起こしてみることです。

関連記事