贈与がなかったことに?相続税が増える?名義預金の解説

暦年で合計110万円までの贈与は、贈与税の基礎控除内であるため、贈与税がかからないため、子や孫のために毎年コツコツと110万円を贈与することはよく取られている節税方法です。

しかし、その贈与が否認され、相続財産となり、相続税が多くかかってしまう場合があります。

それは「名義預金」といわれるものです。

1.名義預金とは

名義預金とは実際の預金者と、名義上の預金者が異なっている預金のことです。

たとえば、以下のものが名義預金の典型例といえます。

親(もしくは祖父母)からの贈与

親(もしくは祖父母)が、子(もしくは孫)にお金を贈与している場合に名義預金の問題が出てきます。

たとえば、祖父母が孫の将来のためにと想い、孫名義の口座を作ってそこに一定額を入金しているが、実際は通帳や印鑑を祖父母が保管、管理しているケース、が名義預金の典型例です。

子や孫が未成年の場合はお金をあげても「無駄遣いをするかもしれない」と考えるかも知れませんし、逆に「子供だから差し迫って使うことはないだろう」として、そのまま親などが通帳や印鑑を管理していることはよくあります。

未成年者である間は、子が自ら口座開設できません。

当然、親権者である親が子名義の通帳を代理して開設することになるので、子はその口座の存在そのものが分からないままとなるのです。

専業主婦のへそくり

収入がない専業主婦である妻が夫の収入の一部をへそくりとして長年貯め、自分名義の口座に入金していた場合、そのへそくりは名義預金とされて(夫の財産)、妻名義のものとは認められない可能性があります。

たとえば、妻が夫に内緒で、夫が定年退職するまで毎月1万円をへそくりとして妻名義の口座に貯めていたとします。

1年12万円、30年で360万円です。

この360万円が名義預金とされる場合があります。

2.名義預金とされるとどうなる?

では、名義預金とされると、どのようなことになるのでしょうか。何か不都合があるのでしょうか。

名義預金は本来は被相続人の財産であるのに、名義上では相続人の財産となっていることです。

そうだとすると、以下のようなことになってしまいます。

贈与がなかったものとして相続財産になる

ちゃんと証拠、履歴が残るように現金渡しではなく、子や孫の預金口座に振り込みによって入金している場合は、特に問題がないように感じます。

しかし、実は問題点があります。

贈与者である親が子の通帳や印鑑を管理したり、出入金を行っていると、その預金は子の財産とは認定されません。

つまり、贈与がなかったものとされます。

贈与がなかったものとされるということは、贈与していた財産が相続財産とされるのです。

相続財産の額が増加すると、相続税もその分増加する可能性があります。

相続税の節税につながると思い、暦年贈与を使って長年コツコツと贈与していた金額が相続発生時に一気に相続財産に組み込まれてしまうのです。

また、上述のへそくりのケース場合でいうと、夫が亡くなり相続が発生しました。

相続税の基礎控除内に収まるか微妙なラインでしたが、妻にはへそくりがあることが分かり、その額が数百万円にも及ぶ場合。

へそくりが名義預金とされ、妻の財産ではなく亡夫の財産と認定された結果、相続税の申告が必要となってしまう、といったことになるかもしれません。

争族・争続の元になる

名義預金が贈与とされず、被相続人の財産とされると、相続財産として遺産分割の対象になります。

名義預金かどうかが遺産分割時に問題となった場合、名義人としては「正真正銘自分の預金口座であるため、その預金額は自分のものである、相続財産ではない。したがって、遺産分割の対象にもならない」と主張することでしょう。

一方で、他の相続人は「いや、それは名義預金である、遺産分割の対象になる」と反論することが明白です。

互いに自分の主張をぶつけ合い、トラブルに発展してしまうおそれもあります。

3.名義預金と疑われるケース

名義預金と認定されるかどうかは、判断の難しいところですが、その判断にあたっては一般的に以下の場合が問題視されます。

◆親(もしくは祖父母)が、子(もしくは孫)の通帳や印鑑を管理している

名義上ではなく、あくまで事実上の管理者がだれか、という点が重要です。

◆贈与の事実を相手方が認識していない

贈与行為はあげる方ともらう方の意思の合致が必要であるため、贈与を受けた事実を認識していなければ、当然ながら贈与と認定することは難しいでしょう。

◆子(もしくは孫)は遠方に住んでいるのに、親(もしくは祖父母)と同じ支店で口座開設しており、届出印が親(もしくは祖父母)の届出印と同じ

贈与してもらった子や孫が、通帳などの存在そのものを認識しているかどうか、です。

届出印が親のものであったり、口座開設している支店が親の取引銀行であったりした場合で、かつ、親が管理していればそれはもはや親の財産、とされる可能性もあります。

4.名義預金とされないためには

◆名義人がちゃんと通帳などを管理しておく

名義預金と認定されないためには、口座の名義人が実際に自由に出入金できる状態であることが重要です。

そのため、通帳やカード、印鑑は口座名義人が自分で管理していることが求められます。

◆贈与契約書を毎回作成しておく

贈与が成立していることを客観的に証明するため、面倒でも贈与の度に贈与契約書を作成しておくことをオススメします。

子や孫が贈与を受けているという認識が重要になるからです。

子や孫に秘密にして、あくまで名義上の口座に入金しているだけでは受け取っている側としては、それが贈与されていると認識できないのは当然です。

税務署も当然それを理由として贈与を否認してきます。

贈与とは、一方があげるといい、他方がもらうといって、両者の合意のうえで成立するものなので、他方が認識していなければ、それは贈与とはいえません。

したがって、お互いの意思の合致を明確にすることににくわえて証拠として残す意味でも贈与契約書を作成し、お互いが署名押印をしておくことです。

5.まとめ

名義預金にあたるかどうかの判断は、実際は簡単ではありません。

しかし、疑念を持たれないよう心掛ける必要があります。

マイナンバー制度と預金口座情報が紐づけされると(口座開設の場合は現状、マイナンバーは任意の届出)税務署は容易に、効率よく個人の預金情報を把握できます。

その結果、疑わしい出入金や名義預金は簡単に捕捉されますので、税務署からあらぬ疑いをかけられないよう、万全の方法を常に意識しておくことです。

子や孫の将来のため、また、節税対策として暦年贈与を活用し、長年せっせと贈与していたのにそれが名義預金とみなされ、今までの贈与が水の泡になってしまわないようにしましょう。

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