相続対策だったのに・・・。リビングニーズ特約の注意点

相続対策、遺留分対策として生命保険を活用する方法があります。

 

詳しくは<遺留分対策のための生命保険金の活用>

ただ、場合によっては想定外の事態になるケースもあるため注意が必要です。

それは「リビングニーズ特約」といわれる特約です。

1.リビングニーズ特約とは

リビングニーズ特約とは、被保険者が余命6か月内と判断された場合、本来であれば死亡した後に支払われる保険金の全部または一部を、3000万円を限度として生存中に受け取ることができる特約です。

要は、死亡保険金の前払いです。

生前のうちに死亡保険金を受取り、

「残りの人生を有意義に過ごして欲しい」

「やりたいことをやって欲しい」

というもので、素晴らしい制度、特約になります。

保険金の使いみちは特に決まってはいないため、入院費に使うことはもちろん、旅行代や不動産の購入資金、または家族のために使うこともできます。

何に使おうが自由です。

くわえて、この特約は無料でつけることができるため、リビングニーズ特約付きで保険に加入している方も多いのではないでしょうか。

生存中に保険金を受け取れるため、保険をかけた本人にとってはありがたい特約ですが、生命保険金を相続対策、遺留分対策として使うのであれば、請求に際して留意すべきところがいくつかあります。

2.遺産分割の対象となる

まず留意しておく必要があるのは生命保険金が遺留分対策、としている場合です。

たとえば、受取人が相続人の場合。

リビングニーズ特約を使わず、原則どおり生命保険金を相続人が受け取った場合、その保険金は受取人である相続人の固有の財産となり、相続財産とはなりません。

つまり保険金は遺産分割の対象にはならない、ということです。

しかし、リビングニーズ特約を使って被相続人が保険金を生前に受け取ってしまうと、本来であれば受取人固有の財産であったものが相続財産となります。

この場合、保険金は遺産分割の対象になってしまい、遺留分対策として保険金を活用することもできなくなります。

したがって、遺産分割対策、遺留分対策として生命保険を組んでいるのであれば、リビングニーズ特約を使って保険金を請求し、受取るのは避けた方がよいでしょう。

3.相続税の問題

リビングニーズ特約を使うと場合によっては相続税の問題も出てきます。

たとえば、リビングニーズ特約を使って生前に受け取った保険金が3000万円とした場合で、その3000万円を生存中にすべて使い切るのと、一方で、3000万円のうち1000万円を使って残り2000万円は使わずに亡くなった場合。

後者だと、この残った2000万円まるまるが相続財産を構成し、場合によっては相続税の課税対象となってしまう可能性があります。

使い残った保険金は被相続人の財産の一部に組み込まれることになりますが、この場合、死亡保険金の非課税枠を使うことはできません。

リビングニーズ特約を使わずに受取人(相続人)が保険金を受け取っていた場合は、保険金のうち法定相続人×500万円の部分が非課税となります。

しかし、リビングニーズ特約を使って被保険者が生前に保険金を受け取り、そのうち使い残った金額があれば、死亡保険金の非課税枠を使うことができず、さらには残額が相続税の課税対象となるのです。

そのため、たとえば、相続人が3人いれば、死亡保険金1500万円までは非課税となるため、非課税分1500万円は保険金を残しておき、残り1500万円をリビングニーズ特約を使って生前に受け取り、使い切る方法が相続税対策としては効果的です。

もっとも、リビングニーズ特約で生前に保険金をすべて受け取ったとしても、相続財産の総額が基礎控除内であれば、そもそも相続税はかかりませんので、基礎控除内に収まるのであれば、わざわざ請求金額を調整したりする必要はないかもしれません。

ちなみに、リビングニーズ特約を使って保険金を受け取ったとしても、被保険者に対して所得税はかかりません。

4.指定代理請求人がいる場合

被保険者が判断能力を欠いたり、意思表示できないなどリビングニーズ特約を使って保険金を請求できない特別な事情がある場合、そのような事態に備えて事前に「指定代理請求人」を定めていることがあります。

この指定代理請求人。

被保険者の代理人として保険金を請求することができますが、だれでもなれるわけではなく、一定の親族に限定されます。

ここで注意しておきたいのがこの指定代理請求人が、死亡保険金が相続対策として組まれていることを知らない場合です。

指定代理請求人としては、被保険者が請求できない状態であるため、代理人として請求することになります。

しかし、生命保険を相続対策として利用するために組んでいたとしたらどうでしょうか。

指定代理請求人が特約を使って請求したばかりに、被保険者が想定していた相続対策、遺留分対策が有効に機能しなくなる可能性があるのです。

したがって、指定代理請求人には、生命保険契約は相続対策として組んでいることを事前に伝えておく必要があります。

5.まとめ

残された時間を有効、有意義に使うために、リビングニーズ特約はありがたい特約といえます。

ただ、相続対策として生命保険を活用するのであれば、注意するべき点があります。

それは、リビングニーズ特約により受け取った保険金は相続財産に組み込まれることになります。

その結果、相続税の負担が生じる可能性がありますし、死亡保険金の非課税枠を使うこともできなくなるため、すべてを使い切る予定がないのであれば、一部請求を考えることも必要になるでしょう。

また、被保険者が特別な事情で保険金請求の意思表示ができない場合、被保険者の代理人として指定代理請求人が請求するケースも考えられます。

保険金を相続対策として組んでおり、生前に請求する考えがないのであれば、指定代理請求人にも自分の意思、考えを正確に伝えておいてお互いで意識を共有することが重要になるでしょう。

いずれにしても後悔のないように慎重に判断する必要があります。

相続税対策・相続対策を重視するか、残された時間を有意義に過ごしていきたいか、どちらに比重を置くかはご本人次第なのです。

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