相続税を支払うために換価分割を行った事例

相続税が多額の場合、その支払いをどうするか、が重要な問題となってきます。

相続財産の中に相続税を払えるだけの現金、預貯金があればよいですが、遺産の大部分を不動産が占めるといったこともあります。

むしろ、そのようなケースが多いのではないでしょうか。

納付期限を過ぎると、延滞税がかかってしまいます。

以下では、相続税を払うため不動産を売却した事例をご紹介します。

事例

被相続人A

相続人は長男B、次男C、三男Dの3名(法定相続分は各3分の1)

Aは数年前に配偶者に先立たれ、自宅で1人暮らしをしていた。

Aは賃貸業を営んでおり、所有する賃貸マンションは都心に3棟あり、その他駐車場もいくつか所有している資産家である。

この度、Aは死亡した。

相続財産の割合は、預貯金もあるが賃貸マンションと駐車場が大部分を占めている。

都心のマンションということもあり評価は高額なため、相続税を試算したところ、納税額は1億円に上る。

1.相続税の納税のため、換価分割

このように、相続税が多額となり、相続人の自己資金では到底支払えない、といったケースがあります。

本事例では遺産のほとんどが不動産であり、相続税の支払いに充てるための相続預貯金はないということです。

あらためて相続財産を精査した結果、現金、預貯金は1500万円であることが判明しました。

しかし、相続税を支払うにはまったく足りません。

検討の結果、賃貸マンションの1棟を売却して、納税資金を捻出することになりました。

不動産業者によると、売り出し価格は諸経費を控除しても十分、相続税を支払える金額になるということです。

2.買主を探す

遺産分割協議と並行して買い手を探すことになります。

しかし、売り出し額が5億円以上となっていますので、そう簡単には買い手が見つからないのではと考えていました。

相続税の納付期限の関係で長引かせることは避けたいところです。

そのようなときに、幸運にもそのマンションの1フロアを借りていた企業から1棟丸々買い取りたい旨の申出がありました。

まったくの第三者に売却するよりは、いままでテナントとして入居していた企業に買い取ってもらった方が好都合なのは言うまでもありません。

3.相続人間で合意できない

ところが、いざ買い手が現れると、Dがその賃貸マンションを売却することに渋りだしました。

何度か遺産分割協議を重ねていきましたが、これ以上任意に話し合っても合意できそうにない。時間を空費してしまう。

そこで、Bは思い切って遺産分割調停を申立てることになりました。

B、Cの話を聞く限りでは、相続人間での感情的な問題が根底にあることが予想されました。

金銭的な問題ではないため、調整が難しく、長引くことが想定されました。

調停期日を4回、5回と重ねることになれば、相続税の納付期限が過ぎてしまい延滞税がかかってきます。

提出書類を急いで取りそろえ、申立書などを作成し、遺産分割調停を申立てました。

ほどなくして第1回目の調停期日が決まりました。申立ての1か月後です。

4.調停合意

構図としてはマンションの売却に反対しているDと、一刻も早くマンションを売却して納税資金を確保したいB、Cとの対立構造ができあがっています。

Dの感情的な問題がうかがえましたので、調停期日を数回重ねることを覚悟していましたが、予想外に、第2回目の調停期日でDがマンション売却に同意しました。

とりあえず一歩前進しましたが、この時点ですでに納付期限まで3か月を切っていましたので、さほど余裕はなく素早い対応が求められます。

5.相続登記、売買契約から相続税の納付まで

まず、相続人名義に相続登記を行い、ほどなく完了しました。

買い手の企業も社内稟議はすでに下りていて、メインバンクからの借り入れ承認も得ているということです。

相続登記完了後、売買契約を結び、手付金が入金されました。入金先口座はBの口座とする合意もできていましたので、Bの口座に手付金が振り込まれました。

あとは残代金の日程を決め、決済当日に残代金の授受を行い、移転登記をはじめとした一連の登記を行うだけです。

売買契約の1か月後が残金の決済日に決まりました。

そして、その日に買主からBの口座に残代金が振り込まれ、相続人名義から買主名義に移転登記も完了し、マンションの名義が変更されました。

この時点で納付期限が残り1か月を切っていましたが、印紙代や譲渡税などの諸費用を控除した売却代金から無事に相続税をすべて支払うことができました。

6.まとめ

相続税の納付のために、相続財産を売却することは珍しくありません。現金、預金が遺産に占める割合は案外少ないものです。

ただ、今回の事例では相続税額が1億円という金額であり、また、相続人の一部の反対により遺産分割協議が成立せず、調停に持ち込まれるという想定外のことが起きたため、より一層の緊張感をもって業務にあたることになりました。

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