代償分割により相続した自宅に住み続ける

遺産分割の方法の1つとして、代償分割があります。

 

詳しくは<代償分割のポイント>

 

以下のような事情がある場合、代償分割が取られるケースが多いです。

◆遺産がすぐに売れない、時間がかかる

◆遺産が不動産しかない

◆遺産を売りたくない、残したい

◆遺産が分けれない、分けにくいものしかない

事例

被相続人A、相続人は妻B、長女C(法定相続分は各2分の1)

AとBは、A名義の自宅に同居していたが、この度Aが死亡した

子のCはすでに結婚し家を出ている

Aの遺産は預金200万円と自宅1600万円(その評価は土地1000万円、建物600万円)の合計1800万円である

1.代償分割をすれば住み続けることができる

Bとしては、当然、そのまま住み慣れた自宅、慣れ親しんだ土地に住み続けたいところです。

Cの意向としてもそのままBが住んで欲しいと望んでいます。

したがって、不動産の売却を伴う換価分割の方法は取れません。

ただ、Cとしては、自宅はいらないが法定相続分2分の1(900万円分)までは相続したい、と思うでしょう。

しかし、Aの遺産からみて、預金だけではそれを満たすことはできません。

このような場合には、Bが自宅を相続する代償として、Cに対し代償金を支払う「代償分割」を選択することでお互いが納得する形にできます。

他の相続人に、「遺産の中にどうしても相続したいものがある」などの事情がなければ、代償分割により、代償金で合意する場合が多くあります。

2.代償金はどうするか

事例では、Bが自宅を相続する代わりに、代償金900万円をCに譲渡します(なお、代償財産は金銭以外でも構いません)。

代償分割では、代償金を支払えるかどうかが最も重要となります。

そもそも、代償金を支払う能力がなければ、代償分割を成立させることはできません。

代償金を一括では支払えない場合は。

分割を望むのであれば、代償の具体的な方法や金額などはお互いが合意すれば自由に決めることができるので、代償金を受け取るCが認めてさえくれれば問題ありません。

もっとも、不動産取得の代償金、となると普通は大きな金額であるため、分割であっても払い続けることは負担となります(場合によっては利子が発生するかもしれません)。

では、どうするか、ですが、一般的に以下の方法を取ることがあります。

(1)生命保険金を活用して

Aが生前、遺産分割対策としてBを受取人とする生命保険金をかけておけば、その保険金を活用してCに代償金を支払うことができます。

保険金は受取人固有の財産であるため、遺産分割などを待たずに必要書類を揃えさえすれば請求後、速やかに支払われますので、それを代償金に充てることができます。

この場合、まちがっても代償金を受け取る側であるCを受取人としないことです。

(2)不動産担保ローンで

被相続人が生命保険をかけていないときは、相続した不動産を担保にして銀行からお金を借り、その借入金で代償金を支払う方法があります。

この場合、相続した自宅には担保として抵当権の設定登記がされます。

借入金の支払いを怠るとせっかく代償分割で相続した自宅が差押えられ、競売(または任意売却)にかけられますので、計画性を持って無理のない金額を借りることが重要です。

なお、登録免許税や事務手数料がかかりますので、その費用も忘れないことです。

(3)相続人からの借入で

Cから代償金を利子付きで借入る方法もあります。

利子付きにしなければただ単に代償金を分割で支払っているに過ぎないので、通常は利子をつけて借入することになるでしょう。

なお、贈与と認定されてしまうと贈与税が課税されるおそれがあるので、相続人の間であっても「金銭消費貸借契約書」の作成は必須です。

3.代償財産が不動産の場合

Bに他に所有している不動産があれば、Cが承諾すれば金銭ではなく、Bがそのもともと持っていた不動産で代償することも当然可能です。

その場合、「遺産分割による贈与」を原因としてBからCに名義変更の登記をしますが、あくまで相続とは異なるため通常の贈与と同率の固定資産税評価額の1000分の20の登録免許税がかかります(相続は1000分の4)。

また、権利書や印鑑証明書、住民票が必要になります。

4.まとめ

生存配偶者がいるなどで、そのまま自宅に居住する(居住を希望する)相続人がいる場合には、代償分割が取られることが多いです。

また、相続人の1人に前妻の子がいるような場合は、後妻側で自宅を相続し、前妻の子には代償金を支払う内容の遺産分割をまとめることが多いです。

代償金の工面などクリアすべき課題はありますが、住み慣れた自宅、土地を手放したくない気持ちがあれば、代償分割を取ることが有益となります。

結局、相続人間で合意できるかどうかです。

同居していない相続人としては

「相続を機に処分しよう」

「処分してそのお金でマンションでも購入した方がよい」

このように考えがちではないでしょうか。

一方、同居していた相続人の想いとしては

「住み慣れた自宅を処分したくない」

「想い出がある場所なので離れたくない」

当然このように考えます。

相続人が納得できる分割方法を探し、選択肢が狭まることのないよう、生前に遺産分割対策をしておくことも重要でしょう。

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