管理費はどうなる?マンションの相続放棄

※以下の解説は、令和5年3月31日までに相続放棄をした方が対象となります。4月1日以降は、改正法の施行に伴い、相続放棄者の管理責任、義務が軽減されました。

1.相続放棄をしたのに管理費の請求

「被相続人が多額の借金を残して死亡したため、相続放棄したのに、被相続人が所有していたマンションの管理費を請求された」

「法律上、支払う義務があると言われたが本当なのか」

相続放棄をしていても、このようなことがあり得るのか。

相続放棄とは、被相続人の有していた一切の財産を放棄し、法律上、はじめから相続人ではなくなることです。

それなのに、冒頭のようなことがあるのかというところですが、法的には請求される可能性があります。それは(改正前)民法940条を根拠にしています。

(改正前)民法940条

「相続放棄をした者は、その相続放棄によって相続人となった者が相続財産の管理をはじめることができるまで、自分の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければなら」

この条文の意味は、

次の相続人が相続財産を管理することができるようになるまで、放棄者は、相続財産について相続放棄後も自分の財産と同程度の注意義務をもって管理責任を負う。

というものです(他人の財産を管理する場合は、「善管注意義務」というそれ相応の重い管理・注意義務が課せられます)。

そして、この条文を根拠にして、相続放棄をしていてもマンション管理組合から、被相続人死亡後から現在にいたるまでの未払いマンション管理費を請求されることがあります。

「管理」というと、戸建て不動産であれば草むしりや換気など定期的な手入れ、掃除を思い浮かべるのではないでしょうか。

しかし、マンションにおいては、居住者(所有者)が管理費を支払うことにより、管理会社(組合)によってマンションの適正な管理、保存が維持されています。

そのため、相続放棄をした者は管理責任の一環として、管理費の支払い義務を負う可能性が法的にはあるのです。

2.管理責任を免れるには?

ところで、「相続権第3順位である兄弟姉妹など、最後に相続放棄した者はマンションがこの世に存在する限りその管理責任を永遠に負うことになるのか」という疑問が出てくるところですが、その場合、別の管理責任者が現れることによって解決します。

「管理責任者」は何も相続人に限定されるわけではありません。

相続人以外の管理責任者。

それは、家庭裁判所に申立てることにより選任される相続財産管理人です。

 

詳しくは<相続人が1人もいないときはどうなる?相続財産管理人とは?>

 

相続財産管理人の選任後は、その財産管理人(弁護士など)が相続財産を管理していくことになるため、相続放棄した相続人は管理責任を免れることができます(マンション管理費を支払う必要はなくなります)。

3.管理組合(債権者)の対応

管理組合としては、管理費を回収したいため、相続放棄した相続人に対して民法940条の管理責任を主張して未払い管理費を請求することになりますが、ただ、それはあくまで一般的な法律論で、現実は以下のようになるのではないでしょうか。

つまり、相続人全員が相続放棄しているということは、被相続人が債務超過の状態であることが予想されます。

マンションにも担保として抵当権が付いているかもしれません。

要するに、未払い管理費の他にも多くの債務(借金)が残っており、債権者が多数にのぼる可能性があります。

抵当権を持っている債権者としては、債権回収を図りたいため、抵当権を実行し競売にかけます(もしくは任意売却)。

担保を取っていない債権者であれば裁判をし、判決を取ってマンションを強制競売にかけます。

マンションの競売代金から債権回収を図ることになります。

そして、競売で購入した人(もしくは競売によらずに任意に購入した人)があらたな所有者として当然ながらマンションの管理費支払い義務を承継します。

そして、購入者は同時に未払い管理費の支払い責任も負います。

以上のとおり、マンション購入者が管理費を負うことになるため、現実問題、相続放棄した相続人に管理費の請求がくることはあまりないかもしれません。

なお、競売や任意売却を行う前提として相続財産管理人の選任は必要です(通常は債権回収を図りたい債権者が管理人選任申立てをします)。

4.まとめ

相続放棄をしても、放棄者には一定の管理責任が残るため要注意です。特に不動産など管理を必要とする財産では相続放棄を行ったとしても、「まったくの無関係」とはならないのです。

場合によっては(改正前)民法940条を根拠にマンションの管理費を請求され、相続放棄をしていても支払う必要が出てきます。

相続放棄しているのに、支払い義務を負ってしまう。

ただ、実際のところは、債権者が相続財産管理人の選任申立てを行い、そして債権回収の一環としてマンションを競売もしくは任意売却にかけますので、その競落人(購入者)が未払い管理費を負担することになるでしょう。

なお、空き家についても同様の管理責任の問題があります。

 

詳しくは<相続放棄をしても空き家は管理しなければならない?>

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