遺産に車がある場合の相続放棄の注意点

相続放棄により、はじめから相続人ではなくなるため、被相続人の一切の財産を相続しません。

では、被相続人が車を残して亡くなったっている場合。

その場合は、別途、確認すべき事項や、相続放棄に際しての対応方法に注意する必要があります。

1.車検証の所有者欄を確認

相続放棄手続きにあたり遺産のなかに車がある場合、まず、車検証の「所有者欄」を確認してみることです。

所有者欄が被相続人以外の者

所有者欄に、ディーラーなど被相続人以外の名前(名称)が記載されていれば、それは所有権留保されていることを表しています。

簡単に言えば、被相続人のモノではありません。

この場合、単に車をディーラーに引き取ってもらえば済む話です。

所有者欄が被相続人

一方で、所有者欄が被相続人自身の場合。

被相続人が所有者として記載されていれば、それは被相続人の遺産となります。

では相続放棄をすれば問題はないのか。

実は、問題があります。

相続放棄をした者は、相続放棄により相続人となった者が相続財産の管理ができるようになるまで自己の財産と同じ程度での管理責任は負うことになるからです。

 

詳しくは<相続放棄をしても空き家は管理しなければならない?>

 

「自分は相続放棄をしたからあとは野となれ山となれ」ということはできないのです。

つまり、子である相続人が全員相続放棄した場合、次順位者に相続権が移りますが、次順位者が車を管理できるようになるまで子は引き続き管理責任を負う、ということです。

 

※なお、令和5年4月1日以降は、改正法の施行に伴い相続放棄者の管理責任、義務が軽減され、現に占有している(事実上支配しているような状況)財産に限って相続放棄後も管理義務を負うこととされました。

2.全員が相続放棄したら?

相続放棄した者は、次の(他の)相続人に車を渡せばよいのですが、では、相続人の全員が相続放棄をしてしまったら。

次に控える相続人がいないため、永久に車を保管、管理する必要があるのか(そもそも、その辺に車を放置することもできないでしょう)。

この場合、原則は相続財産管理人(清算人)を立てて、その管理人に車を含めた遺産を引き渡すことになります。

もっとも、現実問題として、目ぼしい遺産が車だけの場合に、そこまで費用と労力をかけて相続財産管理人(清算人)選任申立てを行う必要があるのか、です。

被相続人に充分な預貯金額があったなら別ですが、相続放棄をしているということは、残高は少ない(ほぼない)ことが通常です。

その場合は、家庭裁判所に予納金を納める必要があります。

この予納金、管理人の報酬や経費に使われるもので、事案の難易度などケースごとに金額は変わってきますが、すくなくとも数十万円は必要になります(預貯金残高がある程度あれば、報酬などはそこから支払われるため、予納金が少なくなったり、場合によっては不要となることも)。

債権者としても実質的な遺産が車だけの場合、高額な予納金を払ってまで管理人(清算人)を立てて清算を望むでしょうか(高級外車であれば話しは別ですが)。

費用倒れになることは明白です。

したがって、債権者から管理人選任を申立てる可能性は低いでしょう。

では、車はどうすればよいのか。

一生涯、管理しなければならないのか、それとも、相続放棄した相続人の方で、多額の予納金を納めてまで財産管理人を立てなければならないのか。

普通に考えて、どちらも妥当とはいえません。

3.車の査定を取る

まずはじめに、その車の財産的価値を把握する必要があります。

なぜなら、遺産のうち財産的価値、流通性のないものについては、処分しても問題はないとされているからです。

家電だったり、洋服だったり、その他被相続人が残した身の回りの品は多くあるでしょうが、それら1つでも処分(売却や廃棄など)してしまうと相続放棄ができなくなるといった結果は妥当とはいえないでしょう(むしろ、要らないモノや不用品は処分していることが普通でしょう)。

そして、処分してもよいのかダメなのか、その判断基準はやはりそのモノの財産的価値や流通性となります。

明確な線引きはありませんが、一般的にみて価値があるモノ、たとえば、貴金属や最新式の家電などは処分しないことです。

では車。

車の価値をまずは把握するために、買い取り業者や自動車査定協会(有料)に査定を依頼し、査定書を出してもらう必要があります。

査定の結果、価値が「ゼロ」となったら

査定の結果、車に「価値はない」となれば、解体、廃車をしたとしても、相続の単純承認にあたる処分にはあたらず、のちのち、債権者などから相続放棄を否認されることもまずないでしょう。

通常、初年度登録から一定年数を経過していたり車検切れの場合などは価値は低くなっていきます。

車検切れで長年放置されているような、明らかにだれが見ても価値のない車はわざわざ査定を取る必要はないかもしれませんが、書面として証拠を残しておく実益があるため、朽ち果てた車であっても、念のため業者に査定をしてもらうことです。

査定の結果、価値が「アリ」となったら

では、いくらかの価値があると査定された場合ですが、この場合はケースバイケースで判断する必要があります。

原則どおり、相続財産管理人(清算人)を選任し、その管理人に引き継ぐのか。ただやはり予納金の問題があるため、この方法は現実的とはいえません。

では、価値がなくなるまで一定期間、保管し続けるのか。

この場合も、駐車場代など保管の費用がかかってしまうため(相続放棄した者の負担で)、現実的ではないでしょう。

難しいところですが、いっそのこと価値のあるうちに処分してしまう方法もあります。

管理人(清算人)が選任され、実際の管理・清算業務までに数カ月はかかります。場合によっては1年以上かかるかもしれません。

その管理人(清算人)が選任されてから売るのと、今のうちに売っておくのとでは、今のうちに売っておいた方が高値で売れる可能性が当然、高いでしょう。

ある程度、価値のあるうちに処分しておくことで、遺産の価値の減少を防いだ、価値を維持した行為と捉えることもできます。

では、相続放棄した者が自ら、それなりの価値があるうちに車を売却したら。

その場合、売却代金には絶対に手を付けないことです。

また、売却代金は自分の口座に入金するのではなく、売却代金を入金、管理するためだけの口座をあらたに開設し、その口座に保管しておくことをおススメします。

以上の方法が絶対的に正しいかどうかは難しいところであり、判断にあたっても悩ましいですが(自己責任の範疇)、場合によっては致し方ないのではないかと思います。

4.まとめ

車を残した被相続人の相続放棄。注意すべき点が多くあります。

まず、その所有者がだれかを確認することです。

使用者と所有者が別の場合もあるからです。被相続人が使用していたから当然、被相続人が所有者とは限りません。

車検証を確認のうえ、所有権留保の有無を判断しましょう。

留保されている場合は、留保先(ディーラーなど)に連絡して車を引き上げてもらえば終わりです。

ただ、留保されていない、純粋に遺産として車がある場合は管理責任などの問題が出てきて話がややこしくなってきます。

まずは車の査定書を取ってみて、価値がゼロと査定されたのであれば、廃車としても遺産の処分にはあたらず、法定単純承認とはならないでしょう(ゼロと評価された査定書は大事に保管しておきます)。

価値のない身の回りの品を処分するのと同じ考え方です。

一方、価値があると査定された場合は、難しい判断になるかとは思いますので、専門家に相談することをオススメします。

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