相続人が1人もいないときはどうなる?相続財産管理人とは?

1.相続人がまったくいない

被相続人に相続人が一人もいない、または被相続人に多額の借金があったため相続人全員が相続放棄したことにより結果的に相続人が一人もいなくなる場合があります。

本来であれば相続人が被相続人の遺産を整理し、不動産の名義変更や債務の弁済手続きを行えばよいのですが、それらを行うはずの相続人がいないため債権者などの利害関係人は困ってしまいます。

そこで、相続人の代わりに遺産を処分したり弁済などの清算を行う者が必要になってきます。

2.相続財産管理人の選任申立て

このような場合、遺産を換価・換金してそこから弁済を受けたい債権者や遺産を受け取りたい受遺者(※)などの利害関係人は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に「相続財産管理人選任の申立て」を行います。

相続財産管理人とは被相続人の遺産の清算手続きを行う者です。

選任された相続財産管理人が遺産の管理・処分・清算を行うことになります。

(※ここでの受遺者は特定遺贈の受遺者です。特定遺贈の受遺者とは不動産や預貯金など、ある特定の財産を遺贈された者をいいます)

相続財産管理人には何か特別な資格はいりません。

申立時に相続財産管理人の候補者を立てることもできます。

ただ、相続財産管理人の仕事は多岐に渡り、重要な法律判断が必要な場面もあるため、基本的には弁護士や司法書士などの専門職が望ましいでしょう。

3.相続人がいないことが条件

相続財産管理人選任申立ては相続人の不存在が条件ですので、以下の場合は相続人不存在とはならず相続財産管理人を選任することはできません。

◆戸籍上、相続人が一人でもいる

戸籍上から、相続人がいることが分かれば相続財産管理人を選任できません。

また、たとえ、相続人が100歳以上であり、死亡している可能性が高くても死亡の記載がないかぎり、相続人の不存在とはならないので相続財産管理人を選任できません。

そのような場合は、失踪宣告や不在者財産管理人の選任となります。

詳しくは<相続人の中に行方不明者がいると遺産分割協議ができない?>

◆遺言書により全部包括受遺者が指定されている

全部包括受遺者とは「Aに財産の全てを与える」といったように、財産の全てを遺言によって遺贈された者です。

包括受遺者は、相続人と同一の権利・義務があるとみなされるため(=相続人と同視できる)相続人不存在とはなりません。

4.必要書類は

申立てに必要な書類は基本的に次のものです。ただし、相続人の範囲によっては追加でさらに戸籍謄本などが必要になります。

①申立書(800円の印紙を貼ったもの)

②被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本

③被相続人の住民票除票または戸籍の附票

④管理人候補者の住民票または戸籍の附票

候補者を立てた場合に必要になります。

⑤被相続人の財産目録、それらに関する資料

登記簿謄本や固定資産税評価証明書、預貯金口座のコピーや残高証明書など

⑥利害関係人が申し立てる場合は利害関係を証明する資料

債権者が申し立てるのであれば、借用書などです。

⑦連絡用の切手(金額は家庭裁判所による)

⑧官報公告費用

官報公告(後述)が必要になるためです。家庭裁判所の指示にしたがい、4,230円を納付します。

⑨相続人が相続放棄している場合は、相続放棄していることが分かる資料

相続放棄申述受理通知(証明)書です。

5.予納金が必要になるケースも

なお、被相続人の遺産が少ない(少ないと予想される)場合、財産管理人の経費や報酬の引当金として申立時に家庭裁判所に予納金を立てる必要があります。

その予納金額は遺産の額や事件の難易度、家庭裁判所によって異なります。

遺産があまりない場合は70万円から100万円が設定されることが多いです。

この予納金がネックとなり、申立てにちゅうちょする場合があります。

6.官報公告

相続財産管理人選任は、一定期間の公告が必要とされています。

この公告は段階を踏んでされるため、すべてが終了するまでかなりの期間を要します。

(1)選任公告

申立てが審理され、問題がなければ管理人が選任されます。

そして、選任されたことが一定期間、官報(政府発行の新聞のようなもの)により公告され、「ある者が相続人がいない中で死亡し、したがって相続財産管理人が選任された」ことを世の中に周知します。

そこで相続人が現れたり、判明すれば、その相続人に遺産を引き渡して管理人は職務を終えます。

(2)債権者などへの請求申出の公告

その後、さらに管理人は知れていない債権者と受遺者を探すため一定期間、官報公告を行い、その公告期間内に債権届出や遺産の請求をするように促します。

すでに判明している債権者や受遺者には個別に対応します。

(3)相続人捜索の公告

(2)の期間内になお相続人が明らかにならないときは、さらに相続人を捜索するための官報公告がされます。

ただし、清算すべき財産が無ければ通常はされません。

7.特別縁故者への財産分与

上記(3)の公告期間に相続人が現れず、期間が経過し相続人の不存在が確定したら、特別縁故者(※)は財産分与の申立てができるようになります。

そして、家庭裁判所から財産分与を認める審判がされると、遺産から分与を受けることができます。

(※たとえば同居していた内縁の配偶者や療養看護に努めた者など特別な関係のあった者)

8.財産調査

管理人は公告期間内に相続人の調査と並行して遺産の調査をします。不動産や預貯金などのプラスの財産および借金や未払い税金、未払い保険料などのマイナスの財産を漏れなくすべて洗い出し、財産目録を作成します。

通常、生前に被相続人が自己の財産目録を作成していることはまれですので、相続人であった相続放棄者や親族から遺産の情報を得ていきます。

不動産権利書や預金通帳などで不動産や金融機関の情報は比較的判明し易いですが、最近ではネット銀行口座、ネット証券口座を保有しているケースや、ビットコインなど仮想通貨をはじめとした暗号資産を所持している場合がありますので要注意です。

9.清算、それでもプラスの財産が残っていると

遺産調査後、不動産があれば売却し、預貯金があれば解約など、すべての財産を換価換金していきます。

そして、次の順に清算(弁済など)されます。

①優先権のある相続債権者

②公告期間内に申出をした相続債権者、知れている相続債権者

③公告期間内に申出をした特定遺贈の受遺者、知れている特定遺贈の受遺者

上記の順で清算をしてもなお財産が残っている場合や、そもそも債権者や受遺者がおらず、そのため財産が残っている場合であっても、近しい親族などが勝手に財産を取ることは当然ながらできません。

遺産から分配を受けたければ前述のとおり、特別縁故者の審判が必要です。家庭裁判所が認めればその者に決定内容にしたがって相続財産管理人から遺産が引き渡されます。

業務が終了すると管理人は家庭裁判所に報酬付与の申立てを行い、決定した報酬を遺産から受領します。その金額は財産の分量や事案の難易度、管理人であった期間、職務内容によって変わってきます。

それでも財産が余っていれば最終的に国のものになります。

管理人の業務が完了した時点で、遺産の中から報酬を支払うことができれば予納金は返還されますが、足りない(払えない)場合は予納金が報酬に充てられます。

10.相続財産管理人選任を回避したければ

相続財産管理人の手続きは公告期間も長く、手続き自体も非常に煩雑です。

財産管理人の報酬も高額になりやすく、場合によっては予納金が必要になってきますので、天涯孤独で自分には相続人がいないと分かっていれば、生前に対処策を取っておくことも有用です。

(1)遺言書を書いておく

遺言には上記で述べた「包括受遺者を定めた包括遺贈」と「特定受遺者を定めた特定遺贈」がありますが、包括遺贈をする内容の遺言書を書いておけば、その者は相続人と同一の権利義務を持つため相続人不存在とはならず、管理人の選任を回避できます。

この場合の遺言書の書き方としては「Aに財産をすべて与える」として「全部」包括遺贈とするべきです。

「Aに財産の2分の1を与える」とする遺言も「割合的」包括遺贈といって包括遺贈の一種ですが、この場合、次のような見解が対立しています。

◆残部の2分の1については相続人不存在として相続財産管理人の選任が必要になるのか

それとも

◆Aにすべて取得させて相続財産管理人の選任を回避できるのか

したがって、遺言書の作成が財産管理人の選任を回避する目的もあれば「割合的」包括遺贈は避けるべきです。

遺贈したい人物がいなければ、場合によっては公益団体などへ寄付することも検討すべきでしょう。

(2)養子縁組をする

養子縁組をすると法律上血族関係が生じ、その者は第1順位の相続権を持ちますので、相続人不存在とはならず、財産管理人の選任を回避できます。

11.対策をとったとしても・・・

遺言書や養子縁組は有効な対策にはなりますが、財産管理人が選任されるということは、遺産もあるが、同時に多額の債務もあることが多いです。

包括受遺者や養子は、その債務を相続したくないとして、相続(遺贈)放棄するかもしれません。

結局、なにかしらの対策をしたとしても相続(遺贈)放棄をされた結果、相続人不存在となり、相続財産管理人選任となる場合もあるのでその点は留意しておく必要があります。

12.まとめ

司法統計によると、平成30年に相続財産管理人選任の事件数は約2万1000件にのぼります。

高齢社会の中、単身世帯は増加していますので、この件数は今後増えていくことが予想されます。

ただ、相続財産管理人選任申立ては集める書類も非常に多く、複雑で専門性が高いため、まずは専門家に相談することをオススメします。

※なお、民法改正により、令和5年4月1日からは相続財産管理人は相続財産清算人と名称が変わり、公告期間も10か月ほど要していたものが、約6か月で済むようになるなどの変更が行われました。

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