1.相続放棄をした後に遺言書が出てきた場合は?
「実家で遺品整理をしていたら親の遺言書が見つかった」というケースがたまにあります。
被相続人の死後、だいぶ経ってから発見されることも珍しくありません。
では、相続放棄をしたあとに発見されたら。
そして、その発見された遺言書の内容が、相続放棄をした者に特定の財産を相続させる内容(これを特定遺贈といいます)であった場合に、以下のような疑問が出てきます。
◆相続放棄をした者は遺贈を受けることができるのか
それとも
◆相続放棄によりはじめから相続人ではなくなるため、遺贈も受けとれないのではないか
結論から言うと、このような場合、すでに相続放棄をしていたとしても、その者は特定遺贈を受けること、すなわち特定の財産を取得することができます。
なぜなら、相続放棄の問題と遺贈の問題は法律上、別の問題であり、相続放棄により「相続人」としての権利や義務を放棄しても、それによって「受遺者」としての権利を放棄したことにはなりません。
したがって、その遺言に基づいて特定遺贈を受けることは可能です。
なお、その遺贈を受けない、何も財産はいらないとするのであれば、特定遺贈の放棄をする必要があります。
特定遺贈の放棄の方法は法律上、特に決まりはありませんので、放棄の意思表示をすることで足ります。
2.遺贈が無効となる場合も
相続放棄しても、遺贈を受けることはできるということでした。
ここで、被相続人の多額の債務だけを免れたいがために、被相続人と相続人が結託していた場合はどうでしょうか。
つまり、被相続人と相続人が共謀して、相続人が相続放棄を行い債務は相続せず、一方で被相続人が相続人のためにプラスの財産だけ受けとれるように、うまいこと遺言書を残して特定遺贈していた場合です。
この場合、次の理由により、債権者などから遺贈の無効・取り消しを主張される可能性があります。
◆債権者を害する行為として遺贈が詐害行為取消権の対象になる
◆そもそもそのような遺贈は信義則や公序良俗に反して無効となる
3.包括遺贈の場合は
なお、遺言の内容が、以下のような内容だとすると。
・特定の者に「全財産を与える」としている場合(全部包括遺贈)
または
・特定の者に「全財産の2分の1を与える」など一定割合の部分を示している場合(割合的包括遺贈)
いずれの場合も、包括受遺者(遺贈を受ける者)は相続人と同一の権利義務がある、とされ、相続放棄をしていても「包括受遺者の立場」として債務も含めてすべてを承継します。
包括受遺者は相続人と同視できるからです。
債務を免れたければ相続放棄に加えて別途、包括遺贈の放棄(※)をする必要がありますが、その場合は当然、プラスの財産も放棄することになります。
(※特定遺贈の放棄とは異なり、包括遺贈の放棄は相続放棄と同じように家庭裁判所の審判を必要とし、さらに3か月の期限があります)
4.まとめ
相続放棄をした後に、遺言書が発見され、しかも放棄した者が受遺者となっている遺言書はまれにあります。
相続放棄したとしても、遺贈を受けることは可能です。
両者は別の制度だからです。
しかし、包括遺贈の場合は要注意です。
包括受遺者は相続人と同一の権利義務があるとされるため、債務も承継してしまいます。
「債務があるから相続放棄したのに、包括遺贈によって債務を相続してしまう」といった事態にもなりますので、遺言書に書かれている文言について判断に迷うのであれば、専門家に相談することをオススメします。