賃貸アパートの解約、相続放棄に影響あるか?

被相続人の遺産を処分してしまうと相続放棄ができなくなります。

遺産の処分は相続を受け入れる行為と捉えられ、「法定単純承認」にあたるからです。

この法定単純承認と関連して、まれに被相続人が借りていたアパートが問題となることがあります。

1.大家や管理会社から・・・

「しばらく見ないと思っていたら部屋で亡くなっていた」。

このような状況は単独世帯の増加で珍しくなくなってきました。

このような場合、大家や不動産管理会社は相続人に対して「早々に部屋の中を片付けて欲しい」と強く要求することが普通です。

大家側としては、当然、勝手に部屋の中のモノを処分して後々、問題が起こることを懸念しますし、手間や費用もかかりますので、相続人に処分・整理を求める対応は当然でしょう。

しかし、相続人が相続放棄を考えている場合、

「部屋の中のモノを処分してもよいのかどうか・・・」

「処分したら相続放棄できなくなるのではないか・・・」

と考えるのではないでしょうか。

この場合、部屋の中のモノを処分したからといって、無条件に相続放棄できなくなるわけではありません。

なぜなら、「経済的価値、流通性のない」モノを処分したに過ぎなければ、法定単純承認にはあたらない、とされているからです。

普通に考えて、相続放棄をしようとしているなかで、たとえば、被相続人が使っていた歯ブラシなどの日常品(経済的価値も流通性もない)を処分したことにより相続放棄ができなくなる、というのは妥当ではありません。

もっとも、明らかに価値を有しているモノは別です。

たとえば最新式、高性能の家電など売れば数万から数十万円するようなモノは処分しないことです。経済的価値を有するため、処分により相続放棄ができなくなるおそれがあります。

大変かもしれませんが、経済的に価値がありそうなモノについては、ほかの相続人(もしくは次順位の相続人)が管理できるようになるまでは適切に自己の責任において保管しておくべきでしょう。

価値のあるモノなのか、処分しても問題ないモノなのか、について判断に迷った場合は、すぐに専門家に相談することをオススメします。

2.賃貸借契約の解約

前述のとおり、部屋の中にある価値のないモノについては基本的に処分してもらっても問題はありません。が、また別の問題がでてきます。

被相続人が契約していた賃貸借契約の解約です。

被相続人が貸家、貸アパートに住んでいたら。

大家としては次の入居者を募集するため、部屋の中を早々に片付けてもらって、賃貸借契約を解約したいと願います。

そのため、大家や管理会社が相続人に解約を求めてくることがあります。

しかし、ここで問題が出てきます。

解約申し入れに素直に応じてよいのか?

相続人が被相続人の賃貸借契約の解約をしてしまうと、被相続人の「賃借権」という遺産を処分したとして法定単純承認にあたる可能性があります。

賃借権も立派な権利であり、遺産となるからです。

しかし、実際のところ解約しなければ賃料が発生し続けますし(場合によっては賃貸契約の保証人にも迷惑をかけることにも)、心情的にも大家などに迷惑をかけている手前、解約に応じてしまう、といったこともあるかもしれません。

この問題に対しては、以下の様な考え方で判断、対応していきます。

①保存行為とみる

まず1つめの考え方。

たとえ相続人が賃貸借契約を解約したとしても、その行為は発生し続けるムダな賃料を止めたとみて保存行為(現状を変更、処分しない行為)と捉えること。

契約関係を放っておけば、実際に住んでいるかどうかは関係なく、賃料が発生していきます。

解約によりその発生を食い止めた、となればそれはむしろ遺産の減少を防いでいる、保存行為にあたる、という考え方です。

②賃借権の価値を考慮

そして、2つ目の考え方。

それは、その賃貸借契約(賃借権)の価値そのものに着目、考慮すること。

家賃が月数万円の部屋と、月数十万円の部屋ではその価値はやはり違います。

ここでも「経済的価値」を考える必要性があります。

経済的価値が認められなければ、解約行為は処分にはあたらない、といった考え方につながりやすいです。

<注意>処分行為に違いないといった考え方も

一方で、賃貸借契約を解約していることは、賃借権という権利を消滅させている「処分行為」に違いはないため、原則どおり相続放棄ができなくなってしまうという考え方も成り立ちます。

この考え方への対策の1つとしては、次のようにしておいた方がよいでしょう。

3.合意して解約しない方が無難

賃貸借契約の解約、前述のとおり考え方によってはどちらにも転ぶため微妙なところです。

それでは、不安で思い切って行動できません。

そこで、より万全を期すのであれば当事者(相続人と大家)で合意により解約するのではなく、大家、管理会社の方から賃料不払い(遅延)による賃貸借契約の解約が可能であれば、そのような対応にしてもらった方が無難です。

要するに「法定解除」、相手方の一方的な意思表示による賃貸借契約の解約、という形にしてもらうのです。

この法定解除の体裁を取っておけば、合意解約とは違って相続人が自らの意思で処分行為をしたわけではないため、法定単純承認にはあたらない、といえます。

4.電気代、水道代などの解約は?

電気代、水道代、ガス代などの公共料金については解約してもその行為が処分と判断されることはありませんので、解約しても問題ありません。

そもそも解約しなくても相続放棄をすれば支払う必要はありませんが(もっとも、例外もあります。詳しくは<相続放棄をしても公共料金は支払う必要がある?>)、そのままにしておくとムダな料金を他の相続人や次順位相続人が相続してしまうため、早々に連絡して解約しておくことです。

部屋の中を片づける必要があれば、片づけがすべて完了してから解約します。

5.まとめ

相続放棄をする場合、様々な、かつ悩ましい問題が降りかかってくることがあります。

その1つが被相続人が賃貸アパートを借りていた場合の対処ではないでしょうか。

賃貸借契約の解約自体が処分にあたる可能性があり、相続放棄ができなくなってしまいます。

したがって、「相続放棄を検討しているから何も対応できない」ことを大家、管理会社に伝えるべきですが、迷惑をかけている手前、心情的にむげにできないのではないでしょうか。

また、未払い賃料や原状回復費用などで保証人に迷惑をかけるおそれもあります(なお、保証人はあくまで保証人であって、契約当事者ではないので賃貸借契約自体を解約する権限はありません)。

お互いが「賃貸借契約を早々に解約したい」と思うことでしょう。

しかし、解約行為自体が法定単純承認にあたるおそれもあるため、その場合は大家との合意での解約ではなく(解約手続きのサインをするのではなく)、相手方の一方的意思表示による解約という形にしてもらうことが望ましいです。

いずれにしても相続放棄ができなくなってしまうと大変なので、何らかの行為をする際には細心の注意を払っておき、

「〇〇はしてよいのか?」

と少しでも不安、疑問に思ったのであれば自分で判断せず専門家に相談することをオススメします。

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