相続権に影響は?死後離縁の勘違い

事例

配偶者に先立たれたAはBを養子とする縁組を結んでAとBは養親子関係になった。

ほどなくしてAが死亡した。

Bはしばらくして死後離縁を家庭裁判所に申立て、許可された。

Aには実子甲、乙がいる。

1.死後離縁とは

死後離縁とは、養親(または養子)が死亡した後に縁組関係を解消すること、です。

一方の死後に離縁するため、死後離縁といいます。

縁組関係解消によって、養親(養子)の親族との関係が終了します。

縁組関係の解消を当事者の話し合い、合意によって行う場合は、役所・役場に離縁の届け出を提出すれば離縁の効果が生じ、そこで手続きは終了、縁組関係は解消されます。

しかし、一方の死後に離縁しようとした場合は当然、当事者の話し合い、合意とはいきません。

2.死後離縁の許可申立て

死後に離縁するのであれば。

この場合、生存当事者(普通は養子の方)は家庭裁判所に離縁の許可を申立てる必要があります。

死後離縁の動機が不純なものではない限り、書類に不備や問題がなければ難なく認められるでしょう。

死後離縁が認められ、審判が確定した後は、「審判書」とその「確定証明書」を役所に提出することにより、戸籍に離縁されたことが記載されます。

3.死後離縁をしても相続権はある

死後離縁をすれば当然、相続権もなくなるかというと、実は相続権にはまったく影響がありません。

Bは第1順位の相続人のままです。

よって、事例では、Aの相続人はB、甲、乙となります。

なぜなら、Bが死後離縁の許可を得たとしても、離縁の効果がA死亡時までさかのぼって生じることはないからです。

離縁の効果がさかのぼって生じないということは、「A死亡時においてはBは養子である」ということです。

だれが相続人にあたるかどうかは被相続人の死亡した日を基準とします。

離縁の効果がさかのぼって生じない以上、A死亡時点において養子であったBは、Aの権利、義務の一切をAが死亡した時点で直ちに承継することになります。

「死後離縁しているから当然に相続人ではない」

「相続権はなくなっているから関係ない」

と勘違い、間違った判断をしてしまうと、相続分や相続人が変わってきます。

場合によってはまったく見当違いの結果となるため注意を要します。

たとえば、唯一の子であった養子が死後離縁をしているため兄弟姉妹相続であると間違った判断をしてしまい、兄弟姉妹相続の前提で戸籍の収集や実印、印鑑証明書を取りそろえてしまった、といったことが起こりえます。

4.相続放棄をすればよい

Bは、Aを相続したくなければ相続放棄をする必要があります。

ただし、相続放棄は相続開始後3か月内の期限があるため、死後離縁の許可を得てから、実はまだ自分が相続人であるという勘違い、思い違いに気付くまでには普通、一定の日数が経過していると考えられます。

そこから相続放棄の申立てとなると時間的に余裕がないかもしれませんので、速やかな対応が必要になります(なお、相続放棄をした後に死後離縁を行っても問題はありませんので、相続放棄を先行することを検討してもよいでしょう)。

5.死後離縁をする理由

以上のように、死後離縁は養親子の相続関係については影響ありません。では、なぜわざわざ死後離縁をするのかというところです。

死後離縁の許可は養親死亡によって、養子から申立てられるケースが多いですが、主な理由としては次のものがあります。

◆養親の親族(事例でいえば甲乙)との人間関係が悪いため親族関係を解消したい

親族同士お互いが扶養義務を負わなくなります。

◆養親の親族に借金があるため、将来その親族の借金を相続するおそれがある

たとえば、Aの実子甲が未婚で子がいない場合、Bは、死後離縁をしていなければ甲の死亡によって、きょうだいとして甲を相続することになります。

ここで、死後離縁をすることによってAの親族との関係は終了し、将来の相続関係も生じません。

したがって、Bは甲を相続することはありません。

6.死後離縁により氏(苗字)はどうなる?

死後離縁をすると、原則、縁組前の氏に戻ります。

ただし、縁組していた期間が7年以上であった者は、離縁の日から3か月内に役所(届出者の本籍地、住所地、所在地のいずれかの市区町村)に届出ることにより、縁組時の氏をそのまま名乗ることができます。

なお、離縁の日から3か月経過している場合は、家庭裁判所の許可を得ることにより、縁組時の氏をそのまま名乗ることができます。

7.まとめ

死後離縁の勘違いによって、思わぬ結果に至ってしまう可能性もあります。

その結果、「遺産分割のやり直し」といったことにもなってしまいます。

死後離縁はあくまで養親子の間の親族関係が終了するだけなので、被相続人に多額の借金などがある場合は死後離縁だけで終わらせず、相続放棄も選択肢に入れることです。

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