遺言書にはなんて書く?配偶者居住権を遺贈する場合の遺言書の記載例

配偶者居住権は遺贈によっても取得できます。

ただ、当然ながら遺言書にはどのように書くかが重要になってきます。

間違った書き方、不明瞭な書き方によって、遺言者の死後、配偶者が従前どおりに自宅に住み続けることができなくなる可能性もあるからです。

1.遺言書には「相続させる」と書かない

一般的に、遺言書には「遺言者は、妻〇〇に◇◇を相続させる」と記載します。

しかし、配偶者居住権については、民法上、取得の方法として「配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき」と規定されています。

そのため、遺言書には、

「遺言者は遺言者の所有する建物◇◇の配偶者居住権を遺言者の配偶者〇〇に相続させる」と記載するのではなく、

「遺言者は遺言者の所有する建物◇◇の配偶者居住権を遺言者の配偶者〇〇に遺贈する」と記載することです。

これは、「相続させる」としてしまうと、配偶者居住権の取得を望まない配偶者の場合に問題が出てきます。

配偶者居住権の取得を望まない配偶者も中にはいることでしょう。

その配偶者が、配偶者居住権を取得したくないと考え相続放棄をしようとすると、預貯金など他の相続財産も放棄することになります。

配偶者居住権のみを相続放棄することはできません。

そのような結果は、かえって配偶者の保護に欠けます。

そのため、遺言書には「遺贈する」と記載することです。

遺贈としておけば、配偶者居住権の取得を望まない配偶者は、相続放棄ではなく「遺贈の放棄」をすれば配偶者居住権の取得のみを拒絶することができます。

他の相続財産については相続できるため、配偶者の不利益を回避できます。

2.「相続させる」となっていても登記できる?

なお、仮に「相続させる」と記載されていても、遺言書の全体の記載から遺贈の趣旨と解することに特段の疑義が生じない限り、配偶者居住権に関する部分を「遺贈」の趣旨であると解して、その遺言書をつけて配偶者居住権設定の登記ができる旨が、令和2年3月30日の法務省民事局通達で示されました。

平たく言うと、遺言書に「遺贈する」と書かれていなくても(相続させるとなっていても)、原則、その遺言書を添付して配偶者居住権の登記ができるということです。

3.遺言書の書きかえも選択肢に

配偶者居住権がスタートしたのは2020年4月1日からです。

それ以前の日に作成された遺言書に配偶者居住権を遺贈する旨が書いてあったとしても、配偶者居住権の制度を適用、利用することはできません。

したがって、遺言で配偶者居住権を遺贈したければ、2020年4月1日以降の日付で遺言書を作成し直す(もしくは配偶者居住権の記載を追加)ことが必要になってきます。

なお、配偶者居住権を遺贈する場合、婚姻20年以上であれば、特別受益にはあたりません。

配偶者居住権が遺贈されたことを理由として相続する取り分が減らされることはありませんので、配偶者の行く先を心配するのであれば、積極的に書きかえることを検討すべきでしょう。

4.その他遺言書作成の際に注意すべき点

配偶者居住権を遺贈する遺言書を残すのであれば、他にも注意しておく点があります。

自宅の所有権について

遺言書に自宅の所有権をだれに相続させるかを記載していなくても、当然、問題はありません。

相続人間の遺産分割で決定されるだけです。

ただ、配偶者居住権の設定登記は、配偶者居住権者と所有者の共同で申請する必要があります。詳しくは<配偶者居住権の登記はどうやる?配偶者居住権の登記のポイント>

そして、建物所有者は配偶者居住権設定の登記義務を負うため、登記申請を拒むことはできません。

しかしながら、登記義務を負うとはいっても、その自宅所有権を相続した相続人と配偶者居住権を取得した配偶者との関係性が悪い場合、素直に登記に応じてくれないおそれがあります。

そうなってしまうと、最悪、裁判に発展するかもしれません。

したがって、遺言書に、配偶者居住権の遺贈に加えて自宅所有権を遺贈する相続人を記載するのであれば、配偶者との関係性も考慮に入れておかなければならないでしょう。

存続期間について

配偶者居住権の存続期間が長ければ長いほど、所有権の価値が低くなります。所有権が制約される期間が長くなるからです。

存続期間は原則、終身(配偶者が死亡するまで)ですが、配偶者居住権と所有権の価値のバランスや、他の相続財産や相続人とのバランスなどを考慮して存続期間を定めることもあるでしょう。

ただ、配偶者側としては自らが死亡するまで住み慣れた家に住み続けるたいと望みます。

一方で、配偶者居住権の負担のついた所有権であるため、将来的に自宅を売却する場合に、存続期間が長ければ長いほど不都合が生じる可能性が高くなっていきます。

たとえば、自宅を売却をする場合、配偶者居住権の登記がついたままでは通常は売れません。配偶者居住権の登記には優先権があり、買主は立ち退きなどを要求できないからです。

そこで、配偶者居住権の抹消登記をしてもらうために配偶者に配偶者居住権を放棄してもらおうと考えても、その時に配偶者が判断能力を欠いている状態だと(認知症を患っている)、有効に配偶者居住権放棄の意思表示ができません。

そうなってしまうと、登記簿には配偶者居住権の登記がついたままなので、簡単に売却することができなくなります。

特に、遺産分割で配偶者居住権を取得する場合では、先のこと(売却や配偶者の施設入所)も見越して、相続人間でよく話し合って存続期間を設定することが必要になるでしょう

この場合、存続期間を終身にしたい(長くしたい)配偶者と、短くしたい相続人の間で、あちらを立てればこちらが立たずの関係となり、話し合いが長引く可能性もあります。

もっとも、配偶者にとっては、存続期間を長くすればするほど、配偶者居住権の価値が高くなり、他の財産(預貯金など)を取得する額が少なくなるというデメリットもあります。

5.まとめ

配偶者居住権を遺言で取得する場合、遺言書の記載方法には気を付ける必要があります。

また、配偶者居住権の制度が始まる前から、すでに遺言書を作成している方は、新たに配偶者居住権について書き加えることも選択肢に入るのではないでしょうか。

その場合は、遺言書の訂正によるのではなく、あらためて遺言書を作成することです。遺言書の訂正は法律上、厳しい方式が要求されているため、いっそのことはじめから作り直した方がよいでしょう。

配偶者居住権を遺贈する場合には、気を付けるべき点が他にもありますので、専門家に相談することをオススメします。

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