養育費の支払い義務は相続されるか?

相談事例

私は夫と3年前に離婚しましたが、一人息子の親権は私が持つことになり、子が成人になるまで養育費を支払ってもらう合意もしました。

ところが、元夫が先月亡くなったと聞きました。

元夫は再婚し、再婚相手との間に子もいるようです。

今後発生する養育費は、再婚相手とその子に請求できるのでしょうか。

また、過去に支払いを受けていない養育費が数十万円ほどあるのですが、それも請求できますか?

1.養育費支払い債務は相続されない

養育費を支払っていた元夫が亡くなった場合、当然、亡くなっている夫には請求できません。

では、子が成人するまで発生する将来の養育費をその相続人に請求できるか。

結論からいうと、養育費の支払い債務は一身専属的なものなので、相続の対象とはならず、したがって相続人に請求することはできません。

 

一身専属権について詳しくは<相続されない権利や義務はある?一身専属権とは>

 

養育費の支払い義務は、「その親がその子に対して」負うものなので、余人をもっては代えがたい、その人にしかできない、という性質があります。

したがって、相談事例において元夫の相続人である再婚相手とその子に対して将来発生する養育費を請求することはできません。

2.未払い養育費は請求できる?

今後発生する養育費は相続人には請求できない。

では、すでに発生している未払い養育費はどうでしょうか。

この場合、上述とは結論が逆になり、すでに発生している未払いの養育費については、通常の金銭債務と同様に相続の対象になります。

すでに発生している養育費は「金銭債務」としてすでに具体化しています(養育費支払い債務ではない)。

通常の金銭請求となり、元夫の相続人である後妻とその子に請求可能です。

3.混同により、法定相続分は請求できない

すでに発生した養育費は、通常の金銭債務として相続の対象となりますが、ここで、注意すべきは養育費を受けている子も相続人である、という点です。

相談事例でいえば、法定相続分は、

・前妻との子(養育費を受ける者)・・・4分の1

・後妻・・・4分の2

・後妻との子・・・4分の1

となります。

そして、たとえば未払いの養育費が100万円あったとします。

では、前妻の子は100万円全額を後妻らに請求できるかというと、この場合、請求できるのはあくまで4分の3にあたる75万円になります。

上述のとおり、元夫が亡くなるまでに発生していた未払い養育費は通常の金銭債務ですが、金銭債務は各相続人が法定相続分にしたがって相続します。

相談事例では、法定相続分にしたがうと、

・前妻との子(養育費を受ける者)が25万円

・後妻が50万円

・後妻の子が25万円

の債務をそれぞれ負います。

そして、養育費を受けるべきの前妻の子は債権者(養育費を請求できる者、未成年であれば法定代理人が請求)でもあり、同時に債務者(養育費の請求を受ける者)となっています。

つまり、前妻の子は4分の1の25万円を自分で請求して、それを自分が受け取る、という関係です。

このような場合、権利(義務)は混同により消滅します。

混同とは簡単に言うと権利と義務が同一となり、その結果、消滅することです。

したがって、4分の1にあたる25万円は消滅するため、請求できる金額は100万円ではなく75万円に限られます。

4.時効に注意

すでに発生している未払い養育費の支払い義務は相続の対象になるとして、いつまでさかのぼって請求できるのかですが、養育費の支払い義務は原則5年で時効(援用)により消滅するため、それ以前のものは請求できなくなります。

請求が先延ばしになるにつれて、時効により消滅する養育費額はどんどん膨らんでいくことになります。

なお、養育費支払いについて調停や審判、裁判など裁判所を介して取り決めた場合は、時効期間は5年ではなく10年になります。

5.まとめ

養育費の支払い途中で相手が亡くなった、というケースはそれほど珍しいことではありません。

この場合、養育費の支払い義務が相続の対象となるのかどうかとういうところですが、一身専属的な権利・義務は相続されないので、将来(成人になるまで)発生する養育費については相続人に請求できません。

しかし、過去に発生した養育費で未払いの分については、もはらそれは一般の金銭債務と何ら変わらないため、相続人が法定相続分にしたがって支払い義務を負うことになります。

ただし、その場合でも養育費支払いの取り決めが当事者の合意など、裁判に基づかない場合は5年で時効により消滅してしまうため、注意を要します。

関連記事