実家を相続した兄弟の換価分割の事例

換価分割は遺産分割の方法としては比較的よく選択される方法です。

どのようなケースで選択されるかを解説します。

事例

被相続人A、相続人は長男C、次男Dの2名

Aは数年前に妻Bに先立たれ、自宅にて一人暮らしをしていたが、この度死亡した。

目ぼしい遺産は自宅くらいであり、また、子のC、Dは独立し、別居している。

C、Dは仕事も家庭もあり、実家に戻る予定はないが、自宅をそのままにしておくと固定資産税がかかり、管理義務も負うため、相当な負担となる。

今般、自宅を売却し、その売却代金を相続人で平等に2分の1ずつの割合で分配したいと考えている。

1.相続人の意思

事例のように住む予定のない家を、このまま放置することは税負担や管理の関係で好ましくありませんし。

また、相続に伴う実家の空き家化問題についてはまさに社会問題化しているところでもあります。

事例では相続人が子2名のみで、また、C、Dともに売却する意思があるため難なく、スムーズに売却に向けて話しを進めることができます。

これが相続人の数が多いと売却代金の分配割合などで合意に時間がかかったり、合意自体ができないといったケースもあります。

相続人の中には、生まれ育った実家を売却することに心理的な抵抗感を持つ方もいますが、相続に伴い不動産を売却することはまったく珍しいことでははありません。むしろ相続を機に、売却した方がよいケースは多いのではないでしょうか。

2.代表相続人を定める

売却にあたりCが中心となって売却手続きを進めていくことになりました。

相続人全員で進めていくとなると、書類の段取りに手間取ったり、時間の都合がつかないなどで不都合が生じることが予想されるため、便宜、長男であるCが代表して執り行うことになりました。

流れとしてはCが第三者に売却し、受け取った売却代金(諸費用控除後)の2分の1を、Dに分配することになります。

地方では売却することが難しい、売却できたとしても諸々の経費で結局赤字になってしまうということもありますが、この物件は比較的ベッドタウンとして認知されている土地であったため、すぐにでも買主が現れるような物件でした。

3.相続登記

売却する前提として(もしくは売却と同時に)、C名義の相続登記を行う必要があるため、まずはAからCへの相続登記を行います。

換価分割の内容の遺産分割協議書を作成し、C、Dに署名押印をしてもらい、あわせて印鑑証明書を提出いただきました。

Cは、Dから今回の売却に関わる一切について全権を委任されているため、遺産分割協議は整っているも同然でした。

戸籍謄本一式や住民票はすでに取り揃えていたため、これで難なく相続登記ができます。

相続登記は1週間ほどで完了し、Cの単独名義となりました。あとは買主が現れるのを待つのみです。

なお、事例ではCの単独名義で相続登記していますが、相続人共有名義に相続登記して売却する方法もあります。詳しくは<共有?単有?換価分割では相続登記の名義はだれにしておくべきか>

4.遺産分割協議書の記載に注意

なお、遺産分割協議書には必ず換価分割である旨を記載しておくことです。

そうしておかなければ、Dに売却代金を分配するときに、その分配金がCからDへの贈与と認定され、Dに贈与税が課税される可能性があるからです。詳しくは<換価分割のポイント>

5.買主へ移転、売却金分配

相続登記に先立ち、地元の不動産会社に媒介を頼んでいたところ、相続登記をしてからほどなく、買主が現れ売買契約を無事に済ますことができました。

すでに相続登記も済ませているため、早々に売却手続きに取り掛かることができます。

また、今回は建物を解体せず、現況有姿での引き渡しとなりました。引き渡しまでには家の中をきれいに片付ける必要がありますので、遺品整理業者に依頼し、家の中の残置物を処分してもらいました。

残金決済時には買主からCに残代金や固定資産税の精算金が支払われ、そこから仲介手数料や登記費用などの経費を控除した金額をCが取得しました。

そして、遺産分割協議どおり、CからDにその2分の1の金額を振込みました。

Cから買主の移転登記も1週間ほどで完了し、相続した自宅の名義は買主名義となりました。

相続の発生から売却、分配までのすべての手続きを、2か月ほどで終えることができました。

なお、今回は譲渡益が生じていないため、譲渡所得税、住民税はかからないケースでした。詳しくは<相続人間で不公平な結果となる?換価分割の譲渡所得税>

6.まとめ

換価分割の方法を取った場合の典型事例を紹介しました。

今回の事例は相続人が2名のみで、双方売却する意向であったため、短期間でスムーズに終えることができました。

ただ、一般的に売却に至るまでには、長い道のりになります。

戸籍謄本などの書類を集めることからはじまり、相続人全員での遺産分割協議や買主の募集、土地の測量が必要かどうかの判断、境界の確定の問題、建物は現況渡しか取り壊すか、残置物の処理・遺品整理、譲渡所得税など税務上の問題など、検討すべきことがら、関与する人物も多く相当なエネルギーを使います。詳しくは<換価分割を行う場合はだれに相談、依頼すればよいか?>

慣れない手続きで負担、ストレスを感じることでしょう。

相続発生に伴い、実家の土地建物の売却を考えている場合は、まずは専門家に相談することをオススメします。

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