自宅を信託?売りたくても売れないときに備えて

相談事例

母が自宅に一人で暮らしているのですが、年も年なので将来、認知症などで一人で生活できなくなる可能性があります。

私たち子どもも独立して家庭や仕事を持っているため、同居することは難しいです。

いずれ、将来的には母が有料老人ホームに入ることを想定しており、母も納得しています。

ただ、ホームに入るには多額の保証金が必要になります。

そこで、ホームに入ることとなった場合、つまり認知症などになって一人で生活できないような状態ですが、空き家になるこの母名義の自宅を売却して、その売却代金から保証金やホーム利用料などを支払っていきたいと考えています。

母が認知症になっていても、自宅は売却できるのでしょうか。もしくは私が代わりに手続きをできるのでしょうか。

今からやれることがあるのであれば、準備をしておきたいと思っています。

1.成年後見制度の活用

「自宅不動産を売却したいが親が認知症になっているため、売却できない」といったことは珍しくはありません。

この場合、まず思いつくのが成年後見人を選任することではないでしょうか。

選任された成年後見人が家庭裁判所の処分許可を得たうえで売却することになります。

売却するためには、

①成年後見人の選任

②居住用不動産の処分許可申立て

の2本の申立てが必要になります。

成年後見人を選任すればそれで済むわけではありません。

詳しくは<認知症になった親の不動産売却>

 

そして、これらの手続きは時間がかかります。

まず成年後見人が選任されるまで。

成年後見人選任の準備のための書類収集、作成から申立て、その後の審理、そして選任されて審判が確定(審判が確定するまでは2週間かかります)するまでは、事案の内容や家庭裁判所にもよりますが、だいたい2か月から3か月はかかるのではないでしょうか(なお、一度申立てると、家庭裁判所の許可がない限り取下げること、申立をやめることはできません)。

選任後は、成年後見人であっても、勝手に自宅不動産を売却できません。

自宅は本人にとって、最も重要な財産といえるからです。

処分するには家庭裁判所の許可が必要になり、そのための「許可申立て」を行います。

この処分許可は申立てれば必ず認めれられる、というわけではなく、

・処分の必要性

・価格の妥当性

の2点について、家庭裁判所に納得してもらう必要があり、納得してもらえなければ許可はされません。

たとえば、財産が十分あるのに売却するとなると、処分の必要性に引っかかるわけです(ただし、事案によってケースバイケースなので、十分な財産があっても許可されることは当然あります)。

また、無事に許可されて売却したとしても、そこで成年後見人の職務が終わるわけではありません。当初の目的を達成したとしても、本人が死亡もしくは能力の回復するまで職務は継続します。

この点がよく誤解されていますが、「売却したから終わりだ」とはなりません。

2.家族信託の活用

「まだ元気なうちはどうか」

「元気なうちになにかできることはないか」

そのような場合は、家族信託を利用して自宅を信託しておく方法があります。

不動産を信託というと、アパートなど収益物件などを思い浮かべるかもしれませんが、自宅も信託することができるのです。

信託契約において、受託者に信託財産を処分する権限を与えることもできるので、認知症で老人ホームなどに入ることになった場合、受託者は自分の判断で空き家となる自宅を売却して、受益者である母親のために売却代金を使うことができます。

売却代金を入所保証金に充てて、残った分は今後の施設利用料に使っていくことができます。

自宅を信託すること自体、あまりピンとこないかもしれませんが、自分が元気なうちに信頼できる人と信託契約をしておき、もしものときのために備えることができるのです。

売却までは考えていない場合は、空き家になった自宅不動産を賃貸に回して、その運用益を本人のために使うことも可能です。

なお、家族信託を行うにも意思能力・判断能力が必要なので、認知症を患っている場合は利用が難しいかもしれません。

あくまで、元気なうち、の対策として検討してもよいかもしれません。

3.まとめ

このように、自宅を信託しておくことで成年後見人制度を使わずに、いざという時に迅速に対応することができるのです。

もっとも、受託者は信託財産を信託契約にしたがって、管理、運用していくことになるため、受託者は信託財産以外の財産の管理権や、ホームの入所契約締結などの身上監護権がありません。

そのため、家族信託を利用したとしても別途、成年後見人の選任が必要となる場面が出てくるかもしれません。

また、元気なうちに家族信託と任意後見制度を併用しておくことも有用なケースがあります。

 

任意後見制度について詳しくは<将来の不安に備える任意後見契約とは?手続きの流れやポイント>

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