1.遺産分割協議が成立した後に改印
遺産分割協議書には相続人全員の実印を押印し、相続人全員の印鑑証明書がセットで必要になります。
なぜなら、押した印鑑が認印なのか実印なのか、第三者にとっては当然判断はできません。
そこで印鑑証明書。
遺産分割協議書に押した印鑑が実印かどうかの照合は印鑑証明書でするため、印鑑証明書が必要になってきます。
なお、印鑑証明書には有効期限がある場合と、有効期限を問わない場合があるので要注意です。
ところで、協議書に実印を押してから、相続手続きに入るまでの間に実印を変更(改印といいます)した場合、遺産分割協議の効力に影響が及ぶか。
もっと言うとその遺産分割協議書を使って相続手続きができなくなってしまうことはあるのでしょうか。
2.実印が変わっても影響はない?
遺産分割協議書に実印が押されているということは、相続人がその協議内容で問題ないとして承諾した、ということなので、仮にその後に実印を変更したとしても、それによって有効に成立した遺産分割協議に影響を与えるものではなく、その遺産分割協議書が無効となることもありません。
なお、遺産分割協議書に各相続人が住所の記入や署名をした後に、相続人のなかで氏名や住所が変わった者がいるとしても、遺産分割協議書は当然、有効です。
3.変更前の印鑑証明書がない場合
問題は、変更前の実印の印鑑証明書がない場合です。
遺産分割協議書に押されている実印は変更前のものであっても何ら遺産分割協議の効力に影響はない。
しかし、印鑑証明書がないと相続手続きができませんが、変更前の実印の印鑑証明書を変更後に取ることはできません。
実印と印鑑証明書はセットでなければならないため、相続人のうち1人でも印鑑証明書がないと各種相続手続きはできません。
この場合、以下の対処法が考えられます。
遺産分割協議書をあらためて作って押し直す
再度、遺産分割協議書を作り直して相続人全員が実印を押す方法です。
ただし、他の相続人に再度実印を押してもらう手間がかかりますし、「協議内容に納得がいっていなかった、不満を持っている相続人が押してくれない」といったリスクも少なからずあります。
また、有効に成立して作成されている遺産分割協議書を、実印を改印したという理由だけで(協議内容自体に変更はなにもない)作り直すことには若干の抵抗感はあります。
変更後の実印を変更前の実印の横に押す
遺産分割協議書に押されている変更前の実印の横に変更後の実印を押す方法です。
関与すべき相続人は改印した相続人だけでよいため簡便です。
ただし、変更後の実印は遺産分割協議が成立した時点ではなかったものなので、提出先によっては認められない可能性があります(もっとも、いつ改印したかは提出先には分からないため、何か言われる、といったことは普通はありません)。
実務上は、この横に押し直す方法で対応することが一般的です。
4.まとめ
遺産分割協議書に押した実印を変更しても、遺産分割協議の効力に影響はなく、そのまま各種相続手続きに使うことができます。
しかし、実印と印鑑証明書は必ずセットでなければなりませんので、変更前の印鑑証明書がない場合には要注意です。
いずれにしても、手続きをしないで放置しておくことは想定外の事態が生じる可能性が高まるため、遺産分割協議が成立したのであれば速やかに相続手続きを進めることをオススメします。