換価分割の場合の遺産分割協議書の書き方で注意すべきポイント

遺産分割の1つの方法として、換価分割があります。

相続した不動産を売却・換価し、その代金を相続人で分配する遺産分割方法です。

当然、遺産分割協議書を作成することになりますが、換価分割の方法による遺産分割の場合、協議書の書き方には注意を要します。

つまり、代表相続人が便宜上、単独で相続する場合で、不動産の売却代金を分配する際に、その分配金が代表相続人から他の相続人への贈与と認定されないような書き方にする必要があります。

 

詳しくは<共有?単有?換価分割では相続登記の名義はだれにしておくべきか>

 

贈与と認定されないような書きぶりは、換価分割の注意点としてよく指摘されるところでもありますが、代表相続人が単独で相続して換価分割を行う場合、ほかにも遺産分割協議書に書いておいた方がよい条項、気を付けるべきポイントがあります。

以下では、換価分割の遺産分割協議書を作成するにあたって4つのポイントを解説します。

1.ポイント①諸経費の範囲(何を諸経費とするか)

不動産の売却にあたっては、様々な専門家、業者が関与しますので、それだけ費用がかかってくることが予想されます。

たとえば、不動産業者に支払う仲介手数料や更地渡しであれば建物解体費用、司法書士への登記費用、などなど。

 

詳しくは<換価分割を行う場合はだれに相談、依頼すればよいか?

 

その諸経費は、売却代金から差し引き、残った金額を合意内容にしたがって各相続人に分配していきます。

仲介手数料など売却にあたって必要となる費用は当然、諸経費とすることに問題はないですが、費用の種類によっては経費に加えるかどうか、相続人間で扱いに相違が出ることもあります

あらかじめ、判断に困るような、トラブルの元になるような費用については、換価する前に事前に必ず取り決めておくことです。

たとえば、よく見られるのが、前述の費用を並べていき、最後に「その他売却に要した一切の費用」とひとくくりにするのも一つの方法です。

しかし、この書き方では具体的に何が売却に要する費用なのか相続人間で認識の違いが出てくることも考えられます。

「その費用は売却に要した、売却に関連した費用である」との主張をすると、他方ではそれを否定する主張がされるかもしれません。

したがって、面倒でも考えられる費用の一切を明確に、具体的に列挙しておくことがトラブル防止の観点からは有用です。

2.ポイント②固定費などの負担、支払い

不動産の固定費でまず思い浮かぶものとして、不動産の固定資産税があります。

この固定資産税の請求、毎年1月1日現在の不動産の所有者にくるため、場合によっては単独で相続登記した代表相続人あてにくることがあります。

また、売却までに時間がかかってしまう場合は、不動産の管理、維持費がその分余計にかかります。

空き家状態であれば、建物の清掃や、除草を業者に依頼した場合の費用など、不動産を維持管理するための費用がかかってきます。

人間が住んでいなければ、不動産は徐々に劣化していくものなので、定期的に管理していかなければなりません。

諸経費の支払先によっては支払うタイミングが異なるものがあります。

たとえば、更地渡しであれば事前に建物を取り壊すことになるため、その建物解体費用がかかります。

また、残置物処理費用や測量費用などは基本的に売却前に終えていることが普通なので、売却前に支払うことになります(もっとも、交渉次第では売却代金受領時に精算するといったこともあります)。

遺産分割協議から実際に売却するまでにかかってくるそれらの固定費、維持コストの負担者、支払いをどうするか、は大変重要な問題になります。

そこで、それらをどうするか、事前に取り決めておくことが有用であり、トラブル回避にもつながります。

以下、固定費などの扱いをどうするか、3パターンに分けて紹介します。

①共同相続人が負担しあう

かかった経費を各相続人がその都度、相続分の割合で負担しあう方法です。

ただ、毎度毎度、精算するとなると煩雑な面があります。

②代表相続人がいったん立て替えておく

代表相続人が支払いの度に立替えておき、後で精算する方法です。

支払いのたびに精算する必要がないため、代表相続人には負担となりますが、簡便で分かりやすいのではないでしょうか。

この場合、代表相続人については手間賃ではないですが、あえて分配割合を増やすことがあります。

③相続した預貯金など他の遺産から支出するのか

不動産以外の遺産として相続預貯金もあれば、預貯金については早々に遺産整理をしておく方法もあります。

その相続預貯金のうち諸経費支払いにあてるための費用として、一定金額をプールしておくのです。

3.ポイント③売却金額

代表相続人の単独名義とした場合(建前上は)その相続人が自由な意思、自分の判断でその不動産を売却できます。売却金額なども代表相続人が自由に決めることができてしまいます。

しかし、代表相続人が決めた金額に納得のいかない相続人が出てくることもあります。

相続人間で売却することについては合意できたとしても、「売却金額」についてちゃんと合意ができていなければ、実際に売れた金額に対し、他の相続人からクレームが出てくるおそれがあります。

そのようなことにならないよう、遺産分割協議の際には「最低売却価格」を相続人全員で合意しておくこともトラブル回避として重要になってきます。

また、あらかじめ最低売却金額を決めておけば、その金額までは購入希望者の値引き要求にも柔軟に応じることができるため、代表相続人(もしくは仲介会社)としても交渉しやすくなります。

4.ポイント④売却期限

最低売却金額に加え、売却までの期限を区切っておいて、その期限までに売却できなかった場合はあらためて相続人間で売却の条件について話し合うことも有用です。

不動産は売り出し価格どおりに売れないことも珍しくありません。その価格が強気であると尚更です。

特に、売却を急いでいなければ、強気の価格設定になりやすいでしょう。

その結果、いつまでたっても売れない、といった状況になりかねません。

あらかじめ期限を区切っておき、期限を迎えたのであれば思い切って一度リセットすることも必要となるのではないでしょうか。

再度、現在の市況や取引相場に合わせた内容の分割を行うことも検討すべきでしょう。

5.まとめ

以上のとおり、換価分割にあたって、代表相続人が単独で相続登記した場合には、共同で相続登記した場合に比べ、トラブル防止の観点から、事前に決めておくべきことが多くあります。

1つは売却代金の分配が贈与にあたらないような書き方、ですが、それ以外にも気を付ける点、注意すべき点がいくつかあるため、合意漏れ、検討漏れのないよう十分気を付けることです。

前述の4つのポイントは基本的な部分にあたり、あくまで一例にすぎません。

他にも相続人間の事情や環境に応じて様々な取り決め事項が出てくる場合もあります。

のちのちトラブルに発展しないよう、遺産分割協議書に漏れのないよう付け加えていく必要があるでしょう。

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