相談事例
父Aが、後妻であるBに自宅である土地建物を相続させる旨の遺言書を残して3年前に亡くなりました。
私Cは先妻との子です。
Aは生前に常々、この自宅はB亡き後はAの実子である私のものになるようにBや私に言っていたため、私としてはBが私のために遺言書を書いてくれるものと思っていました。
しかし、3年たった今でもBがそのような遺言を書いてくれません。
この場合、自宅土地建物を私名義に移す方法はありますか?
なお、贈与は多額の贈与税がかかるためまったく考えていません。
1.遺言を書くも書かないも自由
生前、AはB亡き後はその不動産がCのものとなるようBに言い含めていた事実があります。
であるならば、「Bは、Cに対して遺言を書く義務が生じるのか」ですが、Bにそのような義務が発生するわけではありません。
遺言を書くも書かないも遺言者の自由であり、第三者が遺言書作成を強制することはできません。
なお、Aが「Bの次はCが相続する」といった遺言(いわゆる後継ぎ遺贈)を残したとしても、そのような遺言は認められない、無効となる可能性が高いです。詳しくは<後継ぎ遺贈は有効か?>
2.実子Cが不動産を取得する方法は?
相談事例のように、後妻亡き後は実子に、と願うケースは珍しくはありません。
では、Cが自宅不動産を取得するにはどのような方法があるのか、以下で解説していきます。
養子縁組
相談事例のケースで、Cが自宅不動産を取得する方法としてまず思いつくのはBとCが養子縁組をする方法ではないでしょうか。
養子縁組をしておけば、Bが亡くなった場合、Cは第1順位の相続人となり、不動産を相続により取得できます。
そこで、Cとしては、まずはBに養子縁組をしてくれるどうかを打診してみるとよいでしょう。
もっとも、たとえ養子縁組ができたとしても、Bに実子がいればB亡き後はそれらの者と遺産分割をする必要があります。
場合によっては代償分割なども検討しなければなりません。代償分割について詳しくは<代償分割のポイント>
なお、当然ながら養子縁組をするには前提として、当事者間に「縁組をする意思」が必要となります。
養子縁組を強制する方法(裁判などで)はないため、Bに縁組をする気がないのであれば、養子縁組の方法で自宅を相続・取得することはできません。
後妻の相続人から買い取る
養子縁組もできず、遺言書も書いてもらえなかった、という場合、Cとしては、もし後妻に相続人がいるのであれば、その相続人から不動産を買い取る方法も選択肢に入ります。
ただ、当然ながら金額などの条件面で折り合うことができなければなりませんし、そもそも相続人に売る意思がない場合は買い取ることはできないため、かなり不確実な方法ではあります。
3.生前の対策が重要
自分が亡くなった後の不動産の行く末を気に掛ける方は多くいらっしゃいます。自ら苦労して築いた財産の中で象徴的なモノが自宅不動産と言えるからです。
中には「先祖代々の土地建物は直系の子に」といったケースもあります。
後妻が亡くなった後は、後妻の相続人、たとえば後妻に前夫との子がいれば、その子が相続します。
子がいなければ、Bの親、兄弟姉妹(おい・めい)の順で相続します。
Aはそれを考慮して、「Bの次はCに」と言っていたのでしょう。
Aとしては、自分が築いた財産をB亡きあとは実子Cに継がせたいと考えるのが普通の感覚です。
ただ、単に「最終的にはCに取得させて欲しい」と言ったところで、Cがすんなり取得できるとは限りませんし、養子縁組や遺言を書いてもらう、または相続人から買い取るなどは取得にあたり不確実な方法です。
そこで、Aの元気なうちに有用で効果的な対策を講じておくことが重要になります。
ではどのような対策があるか、ですが、その1つとして「家族信託」が挙げられます。
Aとしては、後妻に従前どおり自宅不動産を使ってもらいたいが、後妻亡き後は実子Cに相続してほしい、ということ。
ここで家族信託です。
Aの意思能力・判断能力があるうちに「後継ぎ遺贈受益者連続型信託」を利用することにより、Aの希望を叶えることができます。詳しくは<自宅を後妻の次は実子に相続させる方法は?後継ぎ遺贈受益者連続信託>
相談事例のケースではもう遅いのですが、Aが生前に家族信託契約を結んでおけば、自らが望んだ結果になったことでしょう。
4.まとめ
後妻と実子の関係性によっては、被相続人本人が望んだ結果とはならないことがあります。
自らが望んだ結果とするためには生前からの対策が重要になってきます。
生前に取り得る対策は様々ですが、
「どのような方法があり、その中でどの方法が効果的なのか」
を見極めて、万全の準備を整えておくことです。