相談事例
数年前に父親が死亡しました。
父親名義の土地建物については、私が相続し、登記名義は私に移しています。
現在、その土地建物には弟が住んでいます。
私自身、独立し自分の家も持っていますので、この度、弟に贈与をしようかと考えています(妻や子も同意してくれています)。
ただ、「贈与税は高い」ということを聞いていますので、税金のことを考えると迷っているところです。
弟に実家の不動産を残す方法としてはどのような方法が最善でしょうか。
「相続」と「贈与」という言葉が出てきますが、その違いについてこちらの記事で詳しく解説していますので、よろしければご覧ください。
1.贈与による場合
相談事例のケースでは、まず思い浮かべるのは贈与だと思います。「あげる」「もらう」の意思が合致することにより成立する契約です。
契約なので、一方的にあげたりもらったりはできません。
贈与にかかる主な税金は
当然ながら税金の問題が出てきます。
贈与に伴って関係してくる主な税金は贈与税、不動産取得税、登録免許税があります。
◆贈与税
弟さんへの贈与なので、税率は一般贈与財産の区分となります。
一般贈与財産は特例贈与財産に比べ、税率が高く設定されています。
たとえば、分かりやすく不動産の評価額(路線価)が2110万円とします。
贈与の基礎控除額110万円を控除すると、2000万円となり、この金額に税率をかけることになります。
2000万円×50%(税率)-250万円(控除額)=750万円(税額)
以上のとおり、多額の贈与税が弟さんにかかってしまいます。
◆不動産取得税
贈与税に加え、不動産を取得した場合には不動産取得税がかかります。税率は土地と居住用建物であれば、一律、不動産固定資産税評価額の3%です。
ただし、土地(宅地)については特例で、課税標準となる固定資産税評価額を2分の1にできます。
また、軽減特例もありますので、検討が必要です。(千葉県ホームページ)
◆登録免許税
贈与による名義変更登記の際には必ずかかってきます。税率は固定資産税評価額の2%です。
登録免許税について詳しくはこちらで解説しています。よろしければご覧ください。
◆その他
贈与の場合は、贈与契約書を作成します。
贈与契約書には収入印紙を貼る必要があります。
印紙金額は不動産の価値、価額にかかわらず200円ですが、不動産の金額を記載してしまうと、その金額にあった印紙が必要になります(贈与なので、普通は金額をあえて記載する必要性はないです)。
なお、金銭や自動車など不動産以外の動産の贈与の場合は印紙を貼る必要はありません。
贈与契約書に印紙を貼る必要があるのは不動産を贈与するときです。
2.売買による場合
他に、弟さんに売買により譲渡する方法があります。
当事者の「売った」「買った」の契約で成立します。
なお、適正な価額で売却すれば何も問題はありませんが、著しく相場とかけ離れた低廉な金額で売却した場合は、低額譲渡として贈与とみなされる可能性もあります(親族間の譲渡となると、低額譲渡の判断が厳しくなるかもしれません)。
売買にかかる主な税金は
売買にも当然税金の問題が出てきます。
売買に伴って関係してくる主な税金は、譲渡所得税・住民税、不動産取得税、登録免許税です。
◆譲渡所得税・住民税
売買により譲渡益が発生した場合は、譲渡所得税・住民税がかかります。
兄弟間での売買の場合、一定の要件を満たせば3000万円の特別控除を受けることができるので、譲渡益が発生する場合は検討する必要があるでしょう。
◆不動産取得税
贈与の場合と同じように不動産取得税がかかります。
◆登録免許税
贈与の場合と同じように登録免許税がかかります。
税率は、土地が不動産固定資産税評価額の1.5%で、建物は2%です。
◆その他
売買契約書を作成します。
その際に印紙を貼る必要がありますが、印紙金額は売買金額によって異なってきます。
なお、印紙金額の軽減措置があります。(国税庁ホームページ)
3.遺言による場合
以上のような契約以外では、遺言による場合があります。
妻と子が贈与することには賛成しているため、他に相続財産がなく、その贈与が遺留分を侵害するものであっても、遺留分侵害額請求をされることはないでしょう。
しかし、翻意して妻、子が遺留分を請求する可能性もあります。結局自分の死後のことなので、それは分かりません。
そのようなリスクを防止しておきたければ、相続開始前であっても家庭裁判所の許可を得れば遺留分の放棄ができますので検討してもよいでしょう。
遺贈にかかる主な税金は
弟さんへの遺贈によってかかる税金ですが、相続税と不動産取得税、登録免許税があります。
◆相続税
遺贈の場合は贈与税ではなく、相続税がかかります。
なお、相続財産と遺贈財産の合計額が相続税の基礎控除内であれば、相続税はかかりません。
◆不動産取得税
相続税がかかるので、取得税はかからないと思うかもしれませんが、相続人以外の者への特定遺贈については不動産取得税がかかります。
税率などは前述のとおりです。
◆登録免許税
遺贈による名義変更登記の際に必ずかかってきます。弟さんは相続人ではないため、税率は固定資産税評価額の2%です。
なお、遺贈登記は、受遺者である弟さんと、遺贈義務者(相続人全員もしくは遺言執行者)との共同申請になります(なお、法改正により令和5年4月からは相続人に対する遺贈登記は単独での登記申請が可能となりました)。
詳しくは<申請人は?必要書類は?遺贈による所有権移転登記の解説>
4.まとめ
急いで贈与(売買)をする事情がないのであれば、贈与税などのことを考えると、弟さんに実家の不動産を遺贈する「公正証書遺言」を残すことをオススメします。
また、弟さんに実家の不動産を与えることについては、妻と子が同意しているため、問題にはならないでしょうが、将来の遺留分侵害請求を考え、念のために妻と子に遺留分の放棄を家庭裁判所に申立ててもらうことも検討する必要があります。
公正証書遺言についてはこちらで詳しくご説明しています。よろしければご覧ください。