相談事例
去年、私の父が亡くなりました。
父は不動産を所有していたため、兄弟で名義をどうするか話し合ったのですが、合意できないまま今に至っています。
とりあえず、私の持分だけでも名義を変えておこうかと考えていますが、可能でしょうか。
1.自分の持分だけの一部移転登記の可否
遺産分割が整わないため、いったん、法定相続分で登記することがあります。
この「法定相続分で登記する」という意味は、自分だけの持分を登記することを意味するのではなく、法定相続人全員が法定相続分にしたがって登記する、ということです。
たとえば、相続人がAとB(法定相続分各2分の1)の場合。
Aが自らの持分2分の1だけを相続登記することはできません。
被相続人名義から、自分の持分だけを相続登記することはできないのです。
2.自分の持分だけを登記できない理由
自分の持分だけを相続登記できない理由としては、以下の2つが挙げられます。
①相続において一部移転はない
まず、相続を原因とした所有権の移転には「一部」移転という概念がありません。
売買や贈与であれば、持分の一部を譲渡することは当然可能ですが、相続はすべての権利が移転することであり、持分が一部だけ移転するということが考えられないのです。
②登記上、被相続人との共有となってしまう
また、仮に一部移転を認めてしまうと登記上(一時的とはいえ)、被相続人との共有状態が公示されることになり、好ましくない登記となります。
3.保存行為として全員名義にはできる
相続を原因として所有権一部移転登記はできませんが、法定相続分にしたがった共有の登記を特定の相続人が全員のためにすることは可能です。
「全員のために」ということであれば認められています。被相続人との共有状態となることもありません。
いわゆる保存行為というものです。
ただし、その場合、申請人以外の相続人には登記識別情報通知書(昔の権利書のこと)は発行されません。
また、事前に法定相続分で登記することを伝えておかなければ、将来的にトラブルに発展する可能性があるので要注意です。
保存行為による相続登記は、特別な理由がない限りあまりオススメはしません。
法定相続分での登記の際に気を付けることとして、詳しくは<法定相続分での登記の注意点>
4.まとめ
とりあえず自分の持分だけを相続登記しておこう。
こう考えることもあるかもしれませんが、相続による移転に、「一部移転」は認められていません。
保存行為として、法定相続分どおりの登記をすることも可能ですが、基本的には避けるべきでしょう。
法定相続分どおりの登記をする場合は、原則どおりすべての相続人が申請人として関与することが望ましいです。