他の相続人に知られることなく相続登記はできる?

1.他の相続人に知られずに相続登記の申請はできる?

「他の相続人に知られることなく相続登記ができるか」という問題があります。

実際に、そのようなご質問をいただくこともあります。

そんなことできないのではないか、と思われるかも知れませんが、実は以下の方法によれば他の相続人に知られることなく相続登記の「申請」が可能です。

法定相続分で相続人全員名義の登記

1つ目の方法は、法定相続分にしたがって相続人全員名義にする場合です。

この方法によれば相続人の1人から相続登記をすることは可能です。

しかし、特定の相続人名義や、相続人全員名義であっても法定相続分とは異なる持分となっている場合は、相続人の1人からでは登記はできません。

あくまで、「法定相続分にしたがって相続人全員が登記名義人となる」場合に限られます。

なぜ法定相続分にしたがって相続人全員名義であれば相続人の1人から申請できるのか。

それは、法定相続分での申請行為はあくまで「保存行為」に過ぎず、この保存行為は何ら現状を変更や処分するものではありません。

あくまで保存行為にあたるのであれば特に実害は発生しない、だから相続人1人からの申請を認めても問題ない、といったところです。

たとえば、夫が亡くなり、相続人の法定相続分が、

・妻4分の2

・長男4分の1

・次男4分の1

とします。

この場合、次男は、相続人全員のために、このとおりの持分であれば単独で相続登記申請ができるということです。

ただし、法定相続分どおりの登記にする必要があるため、自分単独名義にはできませんし、自分の持分(次男の4分の2だけ)だけの登記をすることもできません。

そのような登記は保存行為の範囲を超えて、もはや変更、処分行為といえるからです。

なお、保存行為で法定相続分での登記をした場合のデメリットは、

①売却する際に共有者全員の関与が必要となる

②申請に関与していない妻と長男には登記識別情報(いわゆる権利書)が発行されないので、売却する際に手間と費用が余計にかかる

③勝手に手続きをしたと捉えられ、相続人間の信頼関係が悪くなるおそれがある

主にこの3点が挙げられます。

詳しくは<法定相続分での登記の注意点>

公正証書遺言を使って登記

2つ目の方法は、公正証書遺言を使って登記すれば、他の相続人に知られることなく受遺者の名義に変更できます。

被相続人が公正証書遺言を残して亡くなった場合です。

この場合、公正証書遺言書と遺言者が亡くなったことが分かる戸籍謄本があれば他の相続人の関与なく(遺産分割協議書や相続人全員の印鑑証明書などが不要)、名義変更が可能です。

一方で、これが自筆証書遺言だとしたら。

自筆証書遺言は、公正証書遺言と異なり家庭裁判所の検認手続きが必要になります。

事前に家庭裁判所の検認を受けていないと、自筆証書遺言書を使って相続登記はできません。

そして、家庭裁判所に検認を申し立てると、家庭裁判所から相続人全員に検認期日の通知がいくため、他の相続人に知られずに、ということはできないかも知れません。

検認期日というのは、家庭裁判所に相続人全員が集まって遺言書を開封、確認する日です。

なお、相続人全員が集まっていなくても(一部の相続人しか出席していなくても)検認手続きはされます。

詳しくは<遺言の検認とは?遺言書が見つかったらやるべきこと>

2.相続登記したことは分かる?

上述の方法で他の相続人に知られずに相続登記を申請したとしても、のちのち他の相続人に相続登記をしたことが分かる場合があります。

他の相続人が登記簿を確認

他の相続人が対象物件の登記簿を確認すれば、相続登記がされていることが分かります。

登記されている内容(所有者の住所氏名など)は一般に公示されているため、法務局に手数料さえ払えばだれでも見ることができるからです。

遺言執行者がある場合

遺言執行者がある場合は、公正証書遺言、自筆証書遺言問わず、遺言執行者は遅滞なく遺言内容を相続人に通知する義務があります。

詳しくは<遺言執行者は遺言内容を相続人に通知する必要があるか?>

遺言執行者は遺言書のコピーなどとあわせて、登記簿を相続人に通知(郵送)します。

そして、通知する時点で相続(遺贈)登記が完了していれば、他の相続人には登記がされたことが分かります。

3.まとめ

・法定相続分での相続人全員名義の登記申請

・公正証書遺言を使っての登記申請

これらの申請方法であれば、他の相続人に知られることなく名義変更が可能です。

もっとも、公正証書遺言を使っての登記の場合は問題になりませんが(別途、遺留分の問題はあります)、法定相続分で勝手に登記したことが他の相続人に分かると、トラブルの元になるおそれもあります。

もともとトラブルを抱えていたのであれば、さらに悪化することは明白なので、保存行為により法定相続分での登記をする場合には、その後の影響などを考慮し、慎重に検討することをオススメします。

関連記事