法定相続分での登記の注意点

1.法定相続分での登記

相続人が1人のときは単独で、相続人が2人以上いる場合には、その法定相続分どおりに共有で登記することを「法定相続登記」といいます。

遺言書がなく、遺産分割協議もしない場合に取られる登記の方法です。

たとえば、被相続人の妻と長男、次男で法定相続登記を行うと妻2分の1、長男、次男が各4分の1ずつの3人の共有名義となります。

2.法定相続登記をする理由は?

以下のような事情があれば法定相続登記を選択することもあります。

◆どうしても早く登記申請したい

◆だれが相続するか合意できないのでとりあえず全員の共有名義で

◆みんなが公平、平等になるから法定相続分で登記しておきたい

3.法定相続登記の利点

法定相続登記の最大の利点は、必要書類が少なくなることです。

法定相続登記をする場合、登記申請の際に遺産分割協議書と相続人全員の印鑑証明書の添付が不要になります。

したがって、遺産分割協議書の取りまとめや、印鑑証明書の取得、収集の手間が省けます。

相続登記の難点は、その揃える書類の多さです。その中でも、遺産分割協議書と印鑑証明書を揃えることに時間を使います。

相続人が複数人いる場合、その人数が多ければ多いほど、書類が集まるまでに時間がかかります。

遺産分割協議の内容には賛成しているが、忙しくて印鑑証明書を取りに行けないなどで必要書類が数か月揃わないこともざらにあります。

揃わなければ登記申請はできません。

しかし、法定相続登記であれば、基本的に戸籍謄本一式、被相続人および取得者の住民票があれば登記申請に必要な書類が揃うことになります。

なお、「不動産以外にも財産がある」「財産の内容を書面として残しておきたい」など、場合によっては法定相続であっても遺産分割協議書を作成しておくことはあります。

 

参考として<法定相続分どおりで合意、遺産分割協議書は必要?>もご覧ください。

4.法定相続登記の注意点

前述のとおり、法定相続登記は手間が軽減できて手軽に行えるように感じますが、注意点もあります。

①共有名義となる

相続人が2人以上での法定相続分での登記となると、共有名義となりますが、共有名義はのちのち不都合が生じる可能性があるためあまりオススメできません。

 

詳しくは<共有分割・共有名義をオススメしない理由>

②登記識別情報通知書(権利書)が発行されない場合がある

相続登記の申請にあたっては原則、相続人全員が当事者として関与します。

一方で、法定相続登記では、一部の相続人が申請すれば、他の相続人の同意を得なくても共有の相続登記ができてしまいます。

これを「保存行為」といいます。

売却などは「処分行為」といいますが、処分行為は当然ながら全員の同意が必要になります。

しかし、その処分行為と違って、保存行為、つまり法定相続登記はあくまで法律にしたがった内容での登記に過ぎないため、何ら現状を変更するものではありません。

勝手に(同意を得ず)他の相続人の分も含めて法定相続登記をすることは、それはあくまで「保存」しているに過ぎないのです。

そのため、相続人単独の申請で相続人全員名義の登記が認められています。

要は、勝手に法定相続分での登記をしても「だれにも迷惑をかけていない」ということなのです。

 

ただし、これには問題が1つあります。

他の相続人の同意を得ることなく登記すると、申請人になった相続人にしか登記識別情報通知書(いわゆる権利書)が発行されないのです。

登記識別情報通知書が発行されるためには「申請人」でかつ、「登記名義人」にのみに発行されます。

そのため、他の相続人は登記名義人とはなりますが、申請人としては関与していないため登記識別情報通知書の発行要件を満たしていません。

登記識別情報通知書が発行されないとなにか不都合があるのか。

いまは要らなくても、将来的に不動産を売却したり、不動産を担保に借入することになった場合。

登記識別情報通知書が発行されていないため、それに代わる書類が必要になります。

不動産を売却(もしくは担保に入れる)する際には、売主(もしくは借主)であるその不動産の登記名義人の登記識別情報通知書を法務局に提出する必要があります。

法務局はそれで本人確認を行います。

しかし、その登記識別情報通知書がないと、法務局はその売主(もしくは借主)が真実の登記名義人かどうか判断できません。

登記識別情報通知書がないと法務局は本人確認できませんが、「それが絶対にないと売却したり不動産を担保に融資を受けたりできないのか」というと、実はそうではありません。

 

ではどうするか。

登記識別情報通知書に代わる書面として「本人確認情報」という書面を司法書士が作成します。

法務局は、その本人確認情報を登記識別情報通知書の代わりとして扱ってくれ、問題なければ登記してくれます。

ただし、司法書士の本人確認情報作成費用が登記費用とは別に余分にかかってしまいます。

5.法定相続登記後の遺産分割

法定相続登記をとりあえずしておいて、その後、遺産分割協議を成立させて、遺産分割協議の内容どおりの登記をすることができます。

この場合、所有権更正登記という方法で、しかも単独申請によって登記ができるようになりました。

従来は、更正登記ではなく移転登記の方法による必要がありましたが、更正登記が認められたことにより登録免許税という税金面で有利となりました(更正登記の登録免許税は不動産1個につき1000円)。

また、登記申請にあたっては持分を失う人と持分を得る人の共同申請による必要がありましたが、持分を得る人の単独で登記申請が可能となりました。

これにより、持分を失う人の登記識別情報通知書(いわゆる権利書)や印鑑証明書が不要となるので、申請人の負担軽減が図られました。

6.まとめ

法定相続登記は、遺産分割による場合に比べると手間がかからないため、どうしてもお手軽の感がありますが、共有名義となってしまうのでオススメできません。

また、無用の紛争を招くおそれもあります。

法定相続登記をする場合は、相続人全員が申請人となり、相続登記に関与し、全員に登記識別情報通知書が発行されるようにすることです。

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