「成年後見」という言葉が一般化してきましたが、この成年後見制度、「法定後見」と「任意後見」の2つに分けることができます。
どちらも似たような言葉ですが、以下では、両制度の違いを解説します。
1.自分で後見人を選べるかどうか
法定後見の場合
法定後見では、後見人となる人は家庭裁判所が職権で選任します。
後見人選任申立の時に候補者を立てることができますが、必ずしもその人が選任されるわけではなく、あくまで家庭裁判所の判断で適任者を選任します。
家族を候補者として立てたが、実際には第三者が選任された、ということは珍しくはありません。
任意後見の場合
任意後見は、元気なうちに後見人になって欲しい人との間で任意後見契約を結びます。
当然、後見人となる人を自分で選ぶことができます。
自分が最も信頼できる人を選んでおいて、判断能力が衰えた場合はその人にサポートしてもらいます。
2.取消権があるかどうか
法定後見の場合
成年後見人には取消権があります。
たとえば、判断能力が低下していることをいいことに、悪徳業者から高額な商品を買わされた場合。
成年後見人は、この行為を取消す権限があり、取消権を行使して被害を回復することが可能となります。
任意後見の場合
任意後見人には成年後見人のような取消権がありません。
したがって、被害を回復したいのであれば、詐欺を主張・立証して取消す、もしくは不法行為による損害賠償請求を行う、など別途、裁判手続きが必要となります。
悪徳商法対策としては不十分といえます。
3.自宅売却の際の家庭裁判所の許可が必要かどうか
法定後見の場合
成年後見人が被後見人の居住用不動産を売却する場合、家庭裁判所の許可が必要になります。
成年後見人の一存だけで自由に売却・処分はできません。
許可を得ないで処分した場合、その行為は無効となり成年後見人を解任、といったことにもつながります。
任意後見の場合
任意後見人の代理権の範囲として自宅を売却することができるのであれば、任意後見人は有効に本人を代理して売却できますが、その際に家庭裁判所の許可は不要です。
本人の意思がはっきりしているときにそのような代理権限を与えているのであれば、本人の意思を尊重する意味から、あえて家庭裁判所の許可までを要求することは望ましくないからです。
なお、代理権の範囲のなかで、「不動産を売却する場合は任意後見監督人の同意を要する」などとされていれば、監督人の同意を得ておく必要があります。
また、不動産の売却は重要な財産の処分にあたるので、許可の有無とは関係なく事前に任意後見監督人に報告はしておくべきでしょう。
詳しくは<家庭裁判所の許可は必要?任意後見人による居住用不動産の処分>
4.後見人を監督するのはだれか
法定後見の場合
成年後見人に対しては家庭裁判所が直接、監督者となります。
任意後見の場合
任意後見人に対しては任意後見監督人が直接の監督者となり、家庭裁判所は間接的な関与にとどまります。
5.まとめ
成年後見制度は大きく分けて「法定後見」と「任意後見」の2つがあります。
両者の違いを認識して、どちらを選択した方がよいのか(選択しなければならないのか)を慎重に検討し、法的な側面から本人保護を図る必要があります。