1.任意後見契約の解除はできるか?
任意後見契約は公正証書で作成されることを必要とします。
その後、本人の判断能力が欠いた状況となり、家庭裁判所から任意後見監督人(任意後見人の後見事務をチェックする者)が選任されることにより発効します。
したがって、発効までにはある程度、期間が空きます。
場合によっては10年以上先の話しになることもあります(ただし、即効型という契約形態のように、時間的間隔がないものもあります。
詳しくは<任意後見契約の3つの契約形態(移行型、即効型、将来型)>
ある程度の期間が空いてしまうとういことは、発効するまでに本人と任意後見受任者(将来任意後見人になる者)の間で、事情の変化や意見の相違、お互いの関係性が悪化したなどで任意後見契約を解除したい、といったことがあるかも知れません。
ここで、「任意後見契約の解除は通常の契約と同じように解除できるのか」といった疑問が出てくるのではないでしょうか。
任意後見契約は公正証書で作られるため、
・当事者だけで契約を解除することができるのか
・そもそも解除自体ができないのか
・解除できるとしたらどのようにするのか
を以下で解説していきます。
2.他の契約同様、解除は可能
任意後見契約は公正証書で作成することが法律上、要求されています。したがって、そもそも契約を解除できるのか、といったところですが解除することは可能です。
公正証書であったとしても契約には変わりはないため、売買契約や贈与契約などと同様に解除することができるのです。
契約成立後、発効するまでずっとその契約に拘束されるわけではありませんので、場合によっては解除する、したい、といった場面も出てくるかもしれません。
3.解除の方法は?
任意後見契約は解除できる。
では、その方法ですが任意後見監督人が選任されているかどうか、で異なってきます。
任意後見監督人の選任される「前」の解除方法
任意後見契約は本人が認知症など判断能力を失って、任意後見監督人が選任されることにより発効します。
監督人の選任前、つまり契約が発効していない段階においては、以下の2つのパターンがあります。
◆合意で解除した場合は合意書に公証人の認証を得て解除
◆相手方が非協力の場合やだまされて契約してしまった場合など、合意での解除が困難な場合には、解除通知書に公証人の認証を得て、配達証明付き郵便で相手方に送って解除
任意後見監督人の選任された「後」の解除方法
一方、任意後見監督人が選任された後、つまり契約が発効した後においては当事者の意思だけでは解除することはできず、正当な理由がある場合に限り、家庭裁判所の許可を得て解除することができます。
解除することについて、正当な理由があることを家庭裁判所に納得してもらう必要があるのです。
4.解除後は終了登記を
任意後見は登記されます。
だれがだれを任意後見人に選んで、どのような代理権を与えているのか、任意後見監督人はだれか、などが登記によって公示されます。
そのため、任意後見契約が解除されたのであれば、後見登記を抹消する「終了登記」が必要になってきます。
終了登記をしておかないと、実際は解除済みなのに、登記上は解除されていない状態として残ることになるからです。
そのような状態は当然好ましくありませんし、場合によっては何らかの損害が生じる可能性があるため、早々に終了登記はしておくことです(申請先は東京法務局民事行政部後見登録課)。
5.終了登記の方法は?
では、この終了登記の方法ですが、前述の解除方法同様、任意後見監督人が選任されているかどうかで対応が異なってきます。
任意後見監督人が選任される「前」の解除に基づく終了登記
任意後見監督人が選任される前に解除した場合は、
・合意で解除した場合は、公証人の認証を受けた合意書を添付して終了登記を申請
・解除通知により解除した場合は、配達証明付き内容証明郵便を添付して終了登記を申請
することになります。
任意後見監督人が選任された「後」の解除に基づく終了登記
正当な理由があれば家庭裁判所の許可を得て解除できますが、この場合は、家庭裁判所が許可した審判書と、この審判の確定証明書をつけて登記申請します。
なお、任意後見人が「解任」された場合は、家庭裁判所が終了登記を嘱託(家庭裁判所が法務局に終了登記を依頼すること)するため、自ら申請する必要はありません。
6.まとめ
任意後見契約を結んだときは当然、契約を解除することなど考えないでしょう。
しかし、年数を経ることにより考え方が変わったり、状況の変化が生じることもあります。
「この後見人でよかったのか・・・」
「必要性がなくなった」
など、理由は様々でしょう。
そのような場合、任意後見契約を解除することができます。
ただし、合意による解除、通知による一方的解除のいずれの場合も、公証人の関与が必要になってきます。
締結するときだけではなく、やめる場合においても公証人の関与が必要となるのです。
一方で任意後見監督人が選任された後においては、解除には家庭裁判所の許可が必要になります。
いずれの場合であっても、解除後は後見登記を抹消するための終了登記をすることになります。
任意後見契約の解除は一般的ではないため、専門家に相談することをオススメします。