相談事例
2年前、父が認知症に。単身で住んでいたこともあり、自力で生活することが困難になって、ほどなく施設に入所しました。
自宅は現在空き家となっており、私も定期的に管理することが困難ですし、父の状態からいって、今後自宅に戻ることはありません。
施設費のことや、今後、何らかの不測の事態(火事や防犯上の問題)が起きてからでは遅いと思い、慣れ親しんだ家ですが売却することにしました。
本人が認知症なので、売るには成年後見人を立てる必要があるということで、家庭裁判所に成年後見人選任申立てを行い、私が選任されました。
そして、家庭裁判所の居住用不動産の処分許可を得たうえで、先日、父名義の不動産を売却しました。
私が成年後見人になった動機、理由は、空き家となっていた父の自宅を売却するためだったのですが、売却した後も成年後見人の職務が続くのでしょうか。
1.不動産を売却するには
認知症の方は(判断能力の程度にもよりますが)法律行為を有効に行えません。
そのため、居住用不動産などの財産を処分(売却など)するには、成年後見人を選任して、成年後見人が本人を代理して売却行為を行う必要があります。
また、居住用不動産の売却であれば家庭裁判所の許可が必要になります。
自宅は本人にとって非常に重要な財産となります。その自宅を売却などにより処分することは本人の心身ともに大きな影響を与えます。
そのため、事前に家庭裁判所の処分許可を得たうえでなければ処分することはできません。
詳しくは<認知症になった親の不動産売却>
2.目的を果たしても
では、自宅不動産を売却して得た売却代金はどうなるのか、もっといってだれのものか。
答えは簡単、言うまでもなく、被後見人本人のものになります。
たとえ、成年後見人がすべてを取り仕切って売却したとしても、全額、被後見人の財産として管理する必要があります(財産管理は身上監護と並んで成年後見人の大事な職務となります)。
管理する必要があるということは、成年後見人としての職務も継続するということです。
したがって、成年後見人を選任した目的を果たしたとしても、職務がそれで終了することはありません。
成年後見人の職務が終了する場合は、次の事由だけです。
・成年被後見人の能力が回復して審判が取り消された
・成年被後見人が亡くなった
・成年後見人の辞任・解任
状況としてはあまり想定できませんが、被後見人の管理すべき財産がなくなったとしても、それを理由として成年後見人の職務が終わることもありません。
3.まとめ
売却のため、施設入所契約のため、などを理由として成年後見人を申し立てた場合。
「売却した」「入所契約が済んだ」と、その目的を果たしたとしても、それによって成年後見人としての職務が終了するわけではありません。
勘違いされている方が思いのほかいますので、注意を要します。
成年後見人は本人の財産管理と身上監護を行うことを職務内容としています。
売却や契約が終わったとしても、財産管理、身上監護が終わるわけではない、ということです。