内縁配偶者でも大丈夫?配偶者居住権のポイント

1.配偶者居住権のポイントは?

配偶者居住権を取得する、取得した場合のポイントや留意点には次のものがあります。

◆法律上の配偶者であること

戸籍に配偶者として記載されていることが必要なため、事実婚、内縁の配偶者は含まれません。

また、配偶者以外の相続人も含まれません。配偶者だけが取得することができます。

◆配偶者が相続開始時にその建物に居住していたこと

居住していなくても、それが入院など一時的なものであれば建物に居住しているといえます。

◆居住建物とは、生活の本拠としているところ

生活の本拠として居住していた建物が配偶者居住権の対象になります。

別荘や、一時的に居住している建物については配偶者居住権を取得できません。

◆配偶者居住権を生前に設定することはできない

配偶者居住権は、配偶者の居住する権利を保護しつつ、生活保障も確保しようという制度なため、夫(妻)の生前に配偶者居住権を設定することはできません。

将来、住めなくなる不安や心配があるのであれば、配偶者居住権を保全しておくために、あらかじめ配偶者居住権の仮登記をしておくことです。

 

詳しくは<将来が心配なら夫の生前に!配偶者居住権の仮登記>

 

◆被相続人が建物の所有権を有していること

配偶者居住権が成立するためには前提として、被相続人自らが建物の名義を持っていることが必要です。

被相続人が借りている借家では配偶者居住権は成立しません。

◆建物全部を使用・収益できる

仮に、被相続人の生前、配偶者は建物の一部のみに居住し、使用していた場合であっても、居住権取得により建物全部を使用・収益できるようになります。

たとえば、従来から2階を使用していたのであれば、1階も使用できるということです。

また、収益することも認められるため、配偶者が施設に入所したりなどで住まなくなった場合に、居住建物を賃貸に出して配偶者居住権の財産的価値の回収を図ることも可能です。

◆必要な限度で敷地を利用できる

建物全部を使用収益する際に、配偶者居住権者は、「必要な限度で」その敷地を利用することができます。

たとえば、庭がある場合、その庭を使用することができます。

もっとも、必要な限度がどれくらいの程度なのかは、まだスタートしたばかりの制度なので、実務において事例、事案の蓄積を待つ必要があります。

◆登記できる

配偶者は、配偶者居住権の設定登記をすることによって、仮に所有者が建物を第三者に売却したとしても、その第三者からの退去請求に対し配偶者居住権を主張し、対抗することができます。

なお、その「敷地」に対しては権利を主張することも、第三者に対抗することはできません。

あくまで登記による対抗力は「建物」についてのみです。

 

詳しくは<配偶者居住権の登記はどうやる?配偶者居住権の登記のポイント>

 

敷地については何の権利も主張できません(あくまで敷地「利用権」があるだけ)。

◆被相続人が第三者と建物を共有している場合は居住権は成立しない

被相続人が第三者と建物を共有している場合には、被相続人でさえ生前、建物全部を使用・収益することはできませんでした(持分に応じた使用権のみ)。

それが、第三者のまったく関与しない配偶者居住権によって配偶者が建物全部を使用・収益できるとなると、第三者の利益を不当に害することになってしまいます。

したがって、そのような場合には、配偶者居住権は成立しません。

その第三者がたとえ子であっても、配偶者居住権は成立しないため、建物の名義の確認は必須といえます。

 

詳しくは<子に建物持分を生前贈与したことによって配偶者居住権が成立しない?>

 

◆存続期間は原則終身

原則、存続期間は配偶者が死亡するまでです。ただし、遺産分割協議・調停や遺言によって存続期間を自由に設定できます。

一度決めた存続期間を更新、延長することはできません。存続期間を自由に変更できるとなると、居住権の財産的価値を適切に把握、評価できないからです。

一方で、存続期間を短縮することは可能です。

短縮の場合は一部解除、一部放棄として捉えることができるからです。

存続期間が満了した場合は、所有者との間で賃貸借もしくは使用貸借に切り替えることも選択肢になります。

いずれにしても、存続期間を終身にしておけば亡くなるまで住むことができるため、配偶者としては安心でしょう。

◆配偶者の年齢によってはもらえる金額が少なくなる

配偶者居住権の評価、価値は存続期間によって変わってきます。一般的に存続期間が長いほど価値が高くなります。

以下の場合は、一般的に存続期間が長くなるでしょう。

・配偶者の年齢が若い

・存続期間を終身とした

存続期間が長ければ長いほど、その分、配偶者居住権の財産的価値が高くなるため(裏を返せば所有権の価値が低くなります)、金融資産など他の遺産の取得額が少なくなる可能性があります。

◆配偶者にはいくつかの義務が課せられる

配偶者居住権を取得した配偶者は、自分のモノのようにそれらを使用できるわけではありません。

当然、何かしらの義務も負います。

たとえば、善管注意義務、用法遵守義務、建物返還時の原状回復義務などです。

◆配偶者は固定資産税の支払い義務がある

配偶者の義務の1つとして、通常の必要費は配偶者負担になります。たとえば、通常の使用に伴って生じた損耗の修繕費用です(災害による損傷の修繕など、特別の必要費については所有者が負担します)。

そして、固定資産税は通常の必要費として、配偶者に負担義務があります。

しかし、請求自体は所有者にくるため、いったん、所有者が立替えたうえで、後で配偶者に対して求償することになるでしょう。

もっとも、当事者の話し合いで負担者を所有権者にすることは問題ありません。

なお、配偶者が固定資産税を支払ってくれないことだけを理由として、立ち退きを要求することはできません。

◆配偶者居住権は放棄できる

自らの意思で放棄することは可能です。

たとえば、遺言書に配偶者居住権を遺贈することが書かれていても、配偶者居住権を望まなければ、配偶者はそれを放棄することができます。

また、存続期間の中途に放棄することもできます。

放棄により、配偶者居住権は消滅します。

その結果、建物所有権の財産的価値が高まるため(使用収益できる権利の移転)、配偶者居住権者から所有者への贈与がされた、とみられ贈与税が課税されるおそれがあります。

したがって、放棄する場合は贈与税についても考慮する必要があります。

◆配偶者居住権は譲渡できない

配偶者居住権はその配偶者の保護を目的とするものですので、性質上、譲渡できません。

したがって、配偶者が施設に入所することになり、もう自宅には戻らない場合であっても配偶者居住権を譲渡してそれを金銭にかえることはできません。

なお、所有者に配偶者居住権の買取りを請求できますが(実質、配偶者居住権を放棄することになる)、所有者は買取る義務はありません。

遺産分割協議で、放棄や譲渡について事前に取り決めをしておくことも有用です。

◆配偶者居住権が消滅しても返還を拒めるときがある

存続期間満了などで配偶者居住権が消滅しても、配偶者に1%でも共有持分があれば建物の返還請求を拒むことができます。

持分権に応じた所有権があるため、返還する必要はありません。

それが、わずか1%だとしてもです。

将来、配偶者居住権が消滅し、所有者から退去請求される場合を見越して、念のため持分を取得しておくのもよいかも知れません。

2.まとめ

以上、配偶者居住権のポイントでした。

まだ始まった制度なので、実際の運用がどのようになるか、事例の蓄積が待たれるとことです。

ただ、配偶者の保障が厚くなったことは確かなので、今後、遺産分割協議などでは、この権利を考慮に入れた話し合いがされることも考えられます。

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