死亡保険金は、遺された相続人の生活保障を厚くするため、受取人は配偶者などの相続人となっていることが多いです。
ここで、1つ問題が起こるケースがあります。
被相続人が保険料を負担し、その結果として相続人が生命保険金を受け取ることは、相続人間の公平性を害することになり、特別受益にあたるのではないか、という問題です。
1.原則、特別受益にはあたらないが
最高裁の判例は、原則、生命保険金は特別受益にはあたらないとしています。
やはり、生活保障の意味合いが強いからです。
しかし、例外として、
「受取人である相続人と、他の共同相続人との間の不公平が民法903条(特別受益の規定)の趣旨に照らし到底許されないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情がある場合は、特別受益にあたる」
としました。
「特段の事情」があれば特別受益にあたる、というのです。
そして、その特段の事情とは次のとおりです。
①保険金の額が遺産総額に占める比率
②被相続人との同居の有無や介護などによる貢献度合を考慮
③各相続人の生活実態など
つまり、受け取った保険金が特別受益にあたり、受取人固有の財産ではなく相続財産となるかどうかはこれらの事情を個別に判断して、慎重に検討するということです。
相続財産となると、遺産分割や遺留分請求の対象になります。
将来の遺産分割対策、争続対策で生命保険はよく活用されますが、その際は自己の財産を今一度見返してみて、一部の相続人に過度にかたよった保険契約内容とならないように留意すべきです。
2.特別受益にあたると判断されたケースは?
裁判例の中には、以下のような場合、例外的に特別受益にあたると判断したものもあります。
◆遺産に占める保険金の額が100%に近いものは特別受益にあたる
◆受取人が妻(再婚相手)のケースで、4年に満たない婚姻期間であり、また遺産に占める保険金の額が60%を超えている事情のもとでは特別受益にあたる
これらのような特別な事情がある場合は、受取人固有の財産とはされず、遺産の算定にあたって、その特別受益を考慮して相続分を計算することになります。
相続人の間でみて、過度に不公平といえる場合は、特別受益とされます。
3.具体例
具体例でみると次のようになります。
被相続人は夫、相続人は妻、長男の計2名
遺産額が2000万円
妻を受取人とする生命保険あり、その保険金額は2000万円
<保険金が特別受益にあたらない場合>
保険金が特別受益にあたらない場合は、遺産総額の2000万円を法定相続分各2分の1にしたがって相続します。
したがって、妻は保険金2000万円、遺産額1000万円の合計3000万円を、子は遺産額1000万円を受け取ります。
<保険金が特別受益にあたる場合>
妻が保険金を2000万円受け取った場合、これが裁判などで特別受益とされると、相続財産となります。
遺産額の算定にあたり、この保険金2000万円を加える必要がでてきます。
遺産額2000万円+保険金2000万円=遺産総額4000万円
遺産総額を法定相続分にしたがって分けると妻2000万円、子2000万円となります。
妻は保険金2000万円も受け取っており、合計4000万円取得しています。
しかし、保険金が特別受益とされると、そこからその2000万円を差し引いて相続分を調整します。
したがって、妻は2000万円、子は2000万円を受け取ります。
妻の取り分は特別受益にあたらない場合は3000万円だったのが2000万円となってしまいました。
つまり、遺産2000万円からの取り分はゼロです。
このような相続分の調整を特別受益の持ち戻しといい、相続人間の不公平を是正するための制度として設けられています。
4.持ち戻される金額はいくらになる?
なお、具体例においては、保険金全額を持ち戻しの対象にしましたが、実際にいくらを持ち戻すのか、つまり、具体例のように保険金全額なのか、それとも支払われた保険料に相当する金額に過ぎないのか、明確に統一されているわけではありません。
実際にいくらを持ち戻すかは事案ごとに、それぞれ具体的な事情を考慮して裁判所が判断することになります。
5.特別受益の持ち戻し免除
被相続人は、この特別受益の持ち戻しを免除することができます。免除しておけば、特別受益がなかったことにできます。
上記具体例で言うと保険金を遺産に加える必要がなくなります。
被相続人が妻に、遺産に加えて別に2000万円の保険金を与えたかったのであれば、被相続人は持ち戻しの免除の意思表示をしておけばよいのです。
このように特別受益の持ち戻しを免除するかしないかで結果が大きく異なってきます。
この特別受益の持ち戻しの免除の方法は特に決まってはいませんが、遺言でもできるので、相続人間の紛争予防の観点から、遺言書に持ち戻しを免除する旨を書いておくことをオススメします。
詳しくは<特別受益の持ち戻し免除をする方法は?遺言書、贈与契約書の記載例>
6.まとめ
以上のとおり、生命保険金は原則、特別受益にはあたりません。相続人の生活保障の意味合いが強いためです。
しかし、場合によっては特別受益とされ保険金が相続財産の対象、遺留分侵害額請求の対象となります。
将来、相続人の間で係争化する可能性もあります。
自身の遺産や他の相続人の相続分を考慮のうえ、特定の相続人に過度にかたよりすぎないなどの配慮が必要になるのではないでしょうか。