
1.相続放棄の熟慮期間とは
相続放棄は、相続開始を知った時から3か月以内に家庭裁判所に申立てしなければなりません。
そして、この3か月の期間のことを熟慮期間、といいます。
相続を放棄するか、承認するかを文字通り熟慮する期間ということです。
相続人はこの3か月内に相続財産の調査を行う必要があります。
調査の結果、プラスの財産を超える多額の借金、債務が判明するということは珍しくないため、相続放棄の申立期間内に調査は済ませておく必要があります。
「亡くなった主人には借金はないはず」と思っていても、借金などは家族には黙っておきたいものなので、相続人の想定外に借金が判明することはあります。
また、自ら借金をしていなくても、他人の保証人になっている可能性もあります。
保証債務は相続の対象になるので、債務者が支払うことができなければ、保証人の相続人に請求がきます。
ただ、亡くなってからしばらくは葬儀や四十九日、死亡に伴う各種届出や諸々の手続きなどであわただしい生活になることが通常です。
3か月はあっという間に過ぎてしまいます。
そのような中で財産調査などを行うことは困難な場合もあるでしょう。
◆財産が多岐にわたる
◆権利関係が複雑である
◆相続人の確定に時間を要する
◆残債務について債権者である相手方の回答待ち
様々な事情、理由で調査期間が3か月では足りないといったケースも出てきます。
2.熟慮期間は延長できる
「どうしても3か月ではすべてを調査できない」
「借金がいくらあるか不明なため期間内では放棄するかどうかが判断できない」
など相当な理由、事情があれば、家庭裁判所に申立てることにより、この熟慮期間を延ばすことができます。
これを「熟慮期間の伸長申立て」といいます。
3.申立先、必要書類
この熟慮期間の伸長申立ては、相続放棄の提出先と同じで被相続人の最後の住所地の家庭裁判所に申立てます。
申立書(もしくは陳述書)には、なぜ延長して欲しいのか、どれくらい延長して欲しいのか、を詳細に記載します。
必要な書類は基本的には次のとおりです。
以下では、相続人である配偶者および子が伸長を申立てる場合の必要書類です(第2順位や第3順位の相続人が申立てる場合には、戸籍が追加で必要になってきます)。
①被相続人の戸籍謄本
②被相続人の住民票の除票または戸籍の附票
③伸長を求める相続人の戸籍謄本
④連絡用の切手(金額は放棄する人数や家庭裁判所により変わってきます)
⑤申立書(800円の収入印紙を貼ったもの)
4.延長される期間はどれくらいか
申立ての結果、家庭裁判所が熟慮期間を延長することに相当な理由があると判断してくれれば、期間伸長の審判がされます。
当然に認められるわけではないため注意を要します。
延長が認められた、としても延長してくれる期間がどれくらいになるかはケースバイケースです。
事案の背景や複雑さなど一切を考慮して家庭裁判所の裁量で判断しますが、一般的には3か月程度、延長されます(事情や事案によっては6か月以上といったこともあります)。
5.何度でも伸長申立てはできる
伸長期間の申立てをし、一定期間の伸長が認められたとしてもやはり時間が足りないといったケースも当然ながらあるでしょう。
たとえば、調査をしている中で、あらたな債務が判明したため債権者に問い合わせをする必要がある、もしくは問い合わせに対する回答待ち、といった場合などです。
回答に1か月以上かかることも普通にあるので、回答を待っている間に伸長期間をさらに超えてしまう可能性が出てきます。
この場合、再度、伸長の申立てをすることができるのかどうか。
家庭裁判所が認める限りにおいては期間の伸長には回数制限はありません。
6.延長される相続人は申立人のみ
実際に熟慮期間が延長される相続人は、申立てた相続人のみです。
相続人の1人が申立てれば他の相続人についても熟慮期間が延長されるわけではありません。
つまり、熟慮期間は相続人ごとに個別に進行します。
長男が申し立てて、期間の延長が認められたから、次男の自分も期間が延長されたと思ってもそれは間違いです。
自分の期間が延長したと勘違いし、相続放棄ができなくなってしまった、といったこともあるため要注意です。
7.まとめ
「財産の調査に手間取る」「被相続人と疎遠だったので、詳細が分からない」
など、相当な理由があれば、伸長は認められることでしょう。
しかし、それでも審理には1、2週間ほどかかります。
伸長申立てをしたのに伸長が認められず、その間に3か月も経過してしまい、結局相続放棄ができなくなってしまった、といった事態も起こりえます。
3か月が経過する間近、ギリギリでの申立てはやめておくことです。
放棄するかどうか3か月内にはとても判断できないと感じたのであれば、早々に熟慮期間伸長申立てを行うことをオススメします。