被相続人の身の回りの品を処分すると相続放棄できなくなる?

相談事例

先月、私の父が亡くなったのですが、父には多額の借金があることが判明しました。

そこで、家族で話し合った結果、家族全員が相続放棄をすることになりました。

父の遺産としては、預貯金と不動産があるのですが、当然、一切手をつけていません。

ただ、衣服や靴などの身に着けるものや、明らかに価値のないような身の回りの品が多くあります。

これらは処分してもよいものなのでしょうか。

それとも、父の所有物、遺産には変わりないため、処分してしまうと相続放棄ができなくなってしまうのでしょうか。

1.遺産を処分すると相続放棄ができなくなる

よく知られているところですが、被相続人の財産を処分してしまうと相続放棄ができなくなるのが原則です。

処分の代表的なものとしては、

「勝手に預貯金を引き出して自分のために使った」

「遺産である不動産を売却した」

といったケースが挙げられます。

なぜ処分をしてしまうと相続放棄ができなくなるのか。

それは、財産を処分をしてしまうと「法定単純承認」、つまり法律上その相続を全面的に受け入れる(プラスの財産もマイナスの財産もすべて相続する)効果が発生し、相続放棄が許されなくなるのです。

相続を全面的に受け入れることになるため、はじめから相続人でなくなる「相続放棄」ができなくなるのは当然のことです。

では、相談事例のように、被相続人の遺産の中でも、被相続人が普段から身に着けていたモノやその他身の回りの財産を処分してしまった場合には、相続放棄ができなくなってしまうのでしょうか。

2.身の回りの品は問題ない

結論から言うと、資産価値、流通性のないモノの処分であれば、法定単純承認にはあたらず、相続放棄をすることができます。

むしろ、被相続人が残した洋服や普段使っていた道具、身の回りのモノなどを(それらが一般的に価値のないモノである限り)処分することは普通に行われています。

そのような場合にまで一律、法定単純承認になってしまうのは普通に考えて妥当とはいえないでしょう。

したがって、被相続人の身の回りのモノを処分したからといって、そのことだけを理由に相続放棄ができなくなるわけではありません。

3.価値のあるモノは?

上述のとおり被相続人の財産のうち、価値のないモノを処分したとしても法定単純承認にはあたりませんが、反対に価値のあるモノは気をつける必要があります。

社会通念上、金銭的価値、流通性があるようなモノを処分してしまうと、場合によっては法定単純承認と判断され、相続放棄ができなくなります。

たとえば、宝石、貴金属の類や高級バッグなどは身に着けていたモノではありますが、金銭的価値の観点からみて、処分してしまうと法定単純承認となる可能性が高いです。

家電製品にしても、最新式の、流通性のあるモノを処分してしまうと場合によっては相続放棄ができなくなる可能性があります。

しかし、モノの価値のアリ・ナシの判断は人によって異なってきますし(家族と第三者では特に)、いくら以上であれば価値のあるものなのか、線引自体が困難です。

また、いわゆる「形見分け」のケースも要注意です。

詳しくは<相続放棄ができない、認められないケースとは>

 

したがって、処分する際には細心の注意を払うことです。心配であれば、査定書など価値を客観的に証明できるものを残しておくべきでしょう。

4.まとめ

被相続人の遺産のうち、一般的に資産価値のない身の回りの品を処分したとしても、それだけをもって法定単純承認にあたり相続放棄ができなくなるわけではありません。

ただし、「一般的にみて」価値のあるモノや資産性、流通性のあるモノは要注意です。

場合によっては、その処分が法定単純承認と判断されて相続放棄が認められないといったことも起こりえますので、慎重な対応が必要です。

「処分してよいモノなのか分からない」

「身の回りのモノを処分すると何か不都合があるのか」

相続放棄に際し、上記のようなことで迷った際は、とりあえずは何も手を付けないで早めに専門家に相談することをオススメします。

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