遺言の受取人が先に死亡したら?

1.受取人が先に死亡したら

遺言者より先に受取人が死亡。

遺言の効力発生(遺言者死亡)まで通常、間が空くため、そのような事態になる場合もあります。

では、遺言はどうなるのか。

結論からいうと、遺言者が死亡する前に受取人(受遺者といいます)が死亡してしまうと、その遺贈は効力を生じません。

ただ、効力が生じないのは、その死亡した受遺者がもらえるはずだった部分のみなので、たとえば複数人に遺贈している内容の遺言書であれば、その死亡した者の部分以外は有効です。

遺言書が全体として無効となるものではありません。

逆に1人の受遺者を全財産の受取人としていた場合、その者が遺言者より先に死亡すれば、遺言全体が効力を生じません。

そして、その死亡した受遺者にいくはずだった財産は遺言者の法定相続人に相続されます。

遺贈には、相続の場合とは異なり、法律上、代襲遺贈という制度はありませんので、受遺者の相続人にいくことはありません。

あえて、相続人間で遺産分割をしないようにと生前に遺言書を書いておいても、結果的に遺産分割が必要になってしまう可能性があるのです。

2.予備的遺贈

予期せぬ事態に備えるため、遺言にちょっとした工夫をすることによって代襲遺贈と同じ効果を出すことができます。いわゆる「予備的遺贈(予備的遺言)」と呼ばれるものです。

これは、遺言書にはまず受取人である受遺者に相続させる旨を書いておき、次の条項に、

「前記受遺者〇〇〇が遺言者より先に、または同時に死亡した場合はその子である◇◇◇に遺贈(もしくは相続)する」

と書いておくのです。

そうすることによって、先に死亡した受遺者が受け取るはずだった部分は遺言者の法定相続人に相続されず、指定した受遺者の子に遺贈(相続)させることができますので、あらたに遺言書を作り直す必要はありませんし、相続人間の遺産分割を回避することもできます。

なお、予備的な者をだれにするかは特に制限はありませんので、受遺者の子以外を指定することも当然できます。自治体や日本赤十字社などの公益団体を指定することもできます。

3.予備的遺贈を書いておいた方がよいケース

予備的遺贈は必ずしも書く必要はありませんが、以下のケースでは書いておいた方が効果的です。

前妻(前夫)との子がいる

前妻(前夫)との間に子がおり、何十年も音信不通のような状態であれば、その者に相続してほしくないと考えることもあるのではないでしょうか。

しかし、受遺者が先に死亡してしまうと、受遺者がもらうはずであった遺産は、その子に相続されます。

それを防止するためには、予備的遺贈をしておくことです。

受遺者が高齢

受遺者が高齢であればあるほど、先に死亡してしまう可能性も高くなりますので、念のため、予備的遺贈を定めておくことをオススメします。

遺産分割でもめる可能性が高い

予備的遺贈をしておかなければ、先に受遺者が死亡するとその遺産は法定相続人に相続されます。

遺産分割は相続人全員の合意が必要になるため、共同相続人間の関係性が悪く、もめることが分かっているのであれば、遺産分割を回避することを目的にして、2重、3重の予備的遺贈をしておくことも効果的です。

予備的遺贈を書く理由としての典型例ではないでしょうか。

4.遺言執行者についても予備的に定めておくこと

予備的遺贈とあわせて遺言執行者も同じように予備的に指定しておくべきです。

なぜなら、受遺者を遺言執行者として指定されていることが多いためです。

この指定をしておかなければ、遺言執行者が指定されていないことになります。遺言執行者を定めるためには別途、家庭裁判所に申立てが必要になってしまいます。

 

詳しくは<遺言を実現させる遺言執行者とは?そのメリットや権限>

5.まとめ

人の死亡の時期はだれにも予測できません。

特に、遺言が、相続人間での遺産分割協議を回避する目的もあるのであれば、予備的遺贈の条項を設けておくことをオススメします。

だれを予備的な受遺者にすればよいかなど、判断に迷った際は専門家に相談することをオススメします。

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