1.相続人が遺言書を紛失したら
以前、遺言者が自身の遺言書を紛失した場合について解説しました。
詳しくは<遺言書を紛失したら>をご覧ください。
しかしながら、相続人が遺言書を紛失するケースもあります。
相続人が遺言書を保管していたが、見つからない。
遺言書がないままでは、遺言内容にしたがった手続きをすることができません。
以下では相続人が遺言書を紛失した際に、遺言書ごとの対応方法を解説します。
紛失したのが公正証書遺言
公正証書遺言を紛失してしまった場合ですが、そこまで深刻な問題ではありません。
なぜなら、原本は公証役場に保管されているので、公証役場にて謄本を再交付してもらうことで対応可能です。
詳細は最寄りの公証役場にお問い合わせください。
紛失したのが法務局に保管している遺言書の遺言書情報
自筆証書遺言を法務局に預ける制度もあります。
詳しくは<法務局で遺言書を保管してくれる?遺言書保管制度とは>をご覧ください。
法務局に自筆遺言を保管しているなかで遺言者が亡くなった。
原本は法務局に保管されているので、原本そのものを使って各種手続きをすることができません(原本が返却されることはありません)。
ではどうするかというと、相続人は遺言書情報証明書というものを使います。
遺言書情報証明書には遺言の内容が書いてあるので、この書面があれば遺言内容にしたがって各種手続きをすることができます。
この遺言書情報証明書ですが、1通につき1400円の手数料を支払って発行してもらうことができますので、前もって複数枚請求しておけば一部を紛失したとしても手続きを進めることが可能でしょう。
手元に予備がなければ再度、発行請求をして交付を受けることができます。
請求方法の詳細は<遺言書情報証明書の交付の請求方法>をご覧ください。
紛失したのが自筆証書遺言
紛失したのが自筆で書かれた遺言書の場合は、非常に問題があります。
当然ながら原本はそれ1つしかないからです。
仮に遺言書のコピーを取ってあったとしても、それを使って各種手続きをすることはできません。
2.不動産登記手続きについて
上述のとおり、公正証書遺言であったり、法務局に自筆証書遺言を保管していれば何とかなりますが、自筆証書遺言の原本を紛失してしまった場合は大変です。
遺言書の内容どおりで不動産の登記手続き(所有権の移転)をしたいのに遺言書原本がない。
遺言書のコピーでは手続きができません。
このような場合、登記先例では家庭裁判所の検認調書をもって、遺言執行者の資格証明書とすることができる、というものがあります。
検認調書とは家庭裁判所において自筆証書遺言の検認がされると作られる調書で、家庭裁判所に請求すれば謄本を取得できます。
なお、遺言執行者とは実際に遺言を執行して遺言内容を実現する人です。
遺言書の検認について詳しくは<遺言の検認とは?遺言書が見つかったらやるべきこと>をご覧ください。
遺言執行者について詳しくは<遺言を実現させる遺言執行者とは?そのメリットや権限>をご覧ください。
その調書には、以下のような内容が書かれています。
・検認期日の時間や場所、遺言者や担当裁判官・書記官の情報
・遺言書の形状(封の有無、大きさやどのような紙に書かれているか、何色のペンで書かれているか、など)
・検認に出席した相続人がだれか
・出席した相続人の陳述内容
そして、この先例は検認調書は遺言執行者の「資格証明書」に使える、というものです。
検認調書には遺言書のコピーが合綴されています。
その遺言書を見れば「誰々さんが遺言執行者に指名されている」ことが分かります(そもそも遺言執行者が指定されていないこともありますが)。
つまり、検認調書という公文書にコピーとはいえ遺言書が合綴されているので、その遺言書に遺言執行者の記載があればその検認調書は遺言執行者の資格証明書として使える、ということです。
しかし、この先例では検認調書をもって遺言書どおりの登記手続きができるかどうかは直接述べていません(あくまで遺言執行者の資格証明書として使えますよ、としか述べていない)。
一方で、検認調書の謄本をもって登記手続き自体を認めても良い場合がある、と読める説、文献もあります。
ただし、法務局によって見解が異なることもあるので、検認調書の謄本で対応してもらえるか、法務局へ事前照会をして打ち合わせを行っておくが必須です。
なお、検認済みの遺言書であることが大前提なので、まだ検認をしていない自筆証書遺言を紛失してしまった場合は、どうしようもありません(検認していなければ当然ながら検認調書はない)。
遺言書はもうないものとして、相続人全員での遺産分割で対応する必要があるでしょう。
3.銀行手続きについて
上述の話はあくまで登記先例の話なので、銀行の預貯金解約などにも対応できるかどうかはまた別の話です。
口座解約などの銀行の手続きは原則どおり、遺言書原本を求められることになるかと思われます(コピーのみで対応してくれる可能性は低い)。
ただ、銀行ごとの判断になるかと思いますので交渉の余地はあるかもしれません。
4.まとめ
遺言書を紛失した場合の対処法を解説しました。公正証書遺言や法務局の遺言保管制度を利用している場合と違い、自筆証書遺言を紛失してしまった場合は後戻りできない状況も考えられます。
手続きのさなかに自筆証書遺言を紛失してしまう可能性もゼロではないので、万が一紛失してしまった場合は専門家に相談することをオススメします。