1.遺言書には日付の記載は重要
自筆証書遺言は費用もかからず、手軽に遺言書を作れるため一定の需要があります。
この自筆証書遺言を有効に成立させるには、民法の要件を満たす必要があります。
その要件の1つに、「日付の記載」が求められています。
なぜ日付の記載が必要かというと、主に以下の理由によります。
・遺言書作成時の遺言者の遺言能力の判断
遺言を作成するには遺言能力が必要になります。遺言能力とは15歳以上で、かつ、遺言内容を正確に把握する判断能力です。
したがって、作成時に15歳以上で、かつ、自分の意思で遺言を書くことができる判断能力があったのかを判断するために、日付はとても重要になるのです。
・遺言の優先関係の判断
前の遺言書を作成したあと、後の遺言書で前遺言書を撤回することができるため、いつ成立したかを特定する必要性があります。
そして、その先後は遺言書に書かれている日付で特定しますので、日付の記載が重要となってきます。
このように、字数にしてわずか10文字にも満たないですが、遺言書において日付の記載は本文と同じくらいの重要度があります。
以下では、その日付について解説します。
日付はいつにすればよい?
遺言書の日付は、実際に遺言書を書いた日です。
せっかく本文を書いたとしても、日付の記載がなければ遺言書はすべてが無効となってしまいます。
日付は特定できればよい?
一般的には令和2年2月10日、2020年2月10日、のように正確に元号または西暦で記載しますが、たとえば、「私の満60歳の誕生日」のように正確な年月日は書いていなくても容易に日付が特定できるのであれば、有効な記載と認められます。
一方、「令和〇年〇月吉日」は日が特定できないため、有効な日付として認められません。遺言書全体で無効となります。
日付はどこに書く?
日付を書く場所ですが、通常は冒頭であったり、自書の前に書いたり、だと思いますが、法律上は日付の書く位置についてまでは規定されていません。
では、作成日付が封印された封筒だけに書かれていたケースはどうか。
この場合ですが、判例は封印された封筒も遺言書の一部と捉えて、日付のある遺言書として認めました。
もっとも、封印されていない封筒であれば、その封筒を遺言書の一部とすることが難しいかも知れませんし、積極的に封筒に日付を書くことは無用の混乱を招く可能性があるため、やめておくことです。
なお、自筆証書遺言を封筒に入れて封をすることは必須ではありません。「遺言書は封筒に入れておくこと」といった規定がないからです。
日を書き忘れた場合は?
何年何月までは書いておいたが、日を書き忘れた(もしくは日までは必要がないと考え書かなかった)ということもあるかも知れません。
あとで入れようと思って忘れてしまった場合もあるでしょうか。
で、遺言書に日がないと気づいた、もしくは日が必要と知った。
この場合、実際に気づいた日を書き足しておけば、その日をもって遺言書は成立したものとなります。
ただし、実際に遺言書を書いた日と、日を書き足した日があまりにも離れている場合は、無効となる可能性があります。
日付も忘れずに、全文と同日にすべて書いて終わらせておくことです。
日付の誤記の場合は?
日付の誤記とは、たとえば「平成10年」と書くべきところ、まだ生まれてもいない「1910年」と書いた、「昭和48年」を「昭和28年」と書いてしまった、など作成当時から誤記であることが明らかといえる場合です。
判例は、誤記であること及び真実の作成の日が遺言書の記載その他から容易に判明する場合は、誤記であっても有効としています。
したがって、誤記であっても有効な記載として「当然に」認めらるわけではなく、総合的に判断して「例外的に認められることもある」といった程度です。
自筆証書遺言はだれの関与もなく、始めから終わりまで自分だけで完結するため、誤記が生じやすいです。
日付にかかわらず、全文を通して誤記がないか、思い違いはないかなど書いた後のチェックを忘れず入念にすることです。
2.まとめ
遺言書の効力が発生したということは、遺言者はすでに亡くなっているということです。
遺言者の真意、遺言を書いた意図を確認する術はありません。
したがって、自筆証書遺言には法律上、厳しい成立要件が求められているのです。
その1つが日付の記載です。
日付が書いていなかったり、特定できなければ、遺言は全体として無効となります。
わずか数文字程度でしょうが、それほど日付の記載は重要です。
一方で、遺言者の最終意思を尊重する必要性もあるので、遺言をできるだけ有効に成立させよう、という考え方もあります。
いずれにしても、たかが日付で遺言書が無効とならないよう、遺言書を作成する場合は公証人などの専門家が関与する公正証書遺言で作成することをオススメします。