
1.株式が相続されると
相続が発生すると、相続人は被相続人の有していた財産を相続します(中には相続の対象とはならないものもあります)。
当然、株主としての地位、つまりは株式も相続の対象となります。
会社によっては株式の譲渡制限を設けていますが、相続による株式の移転は譲渡制限の対象外なので、相続人は当然に株式を相続します。
この場合、会社側からみると問題がないわけではありません。
いわゆる「株式の分散化」です。
遺産分割がされるまで、相続された株式は相続人全員が法定相続分にしたがって共有する形となります。
詳しくは<株式の相続、法定相続分で分割される?>をご覧ください。
そして、相続人は1人とは限りません。3人、4人は珍しくはなく、場合によっては2桁の人数となることも。
株主が多ければ多いほど管理コストもかかりますし、会社としてはあまり好ましくない(友好的ではない)株主が登場してしまうこともあります。
会社の意思決定がスムーズにできなくなることも。
会社としては相続人に渡った自社株を取得したい、買い戻したい、という場面です。
そのような場合は、相続人に対する株式の売渡請求の制度を検討してもよいかもしれません。
2.相続人に対する株式の売渡請求の制度とは?
相続により株式が分散化してしまうと、意思決定に支障を来たすおそれや場合によっては会社に思わぬ損害が発生してしまうことも。どうにかそのような事態を防ぐことができないか。
その場合、相続人に対する株式の売渡請求を行うことで、ある程度の懸念を払しょくすることができます。
相続人に対する株式の売渡請求とは、会社が相続人に対して相続した株式を会社に(代表者個人ではない)売渡すよう請求することです。
相続人に渡った株式を買うことにより、好ましくない株主の誕生を防げますし、分散化も解消できます。
以下、相続人に対する株式の売渡請求を行うための要件、流れです。
定款の定めがあること
定款とは、会社の根本規則のようなもので、会社を作るためにはまず定款が必要になるのでどこの株式会社にもあります。
いわば会社の憲法にあたるこの定款に、相続人に対する株式の売渡請求ができる旨が規定されていることが必要です。
定款に規定がなければ相続人に対する株式の売渡請求をする前提として、定款を変更してあらたに規定を設ける必要があります。
なお、売渡請求の規定を定めるための定款変更は相続が発生した後でも可能とされていますので、相続発生時に規定がなくても対応可能です。
財源規制に反しないこと
会社は売渡請求により自己株式を取得することになりますが、他の株主や会社債権者の利益を害することのないよう、無制限に売渡請求はできません。
会社法上、剰余金の分配可能額の範囲内という制限があり、財源規制が設けられているので注意を要します。
株主総会の特別決議
会社は売渡請求をする都度、株主総会にて売渡請求をする株式の数、請求の相手方の氏名や住所を決議(特別決議)する必要があります。
勘違いしやすいところですが、定款に規定があるからといって当然に売渡請求を行うことはできません。
このルールの存在によって、後述のリスクにつながる可能性があります。
相続人に対する売渡請求
相続人に対して売渡請求をする際には、売買価格も提示・提案することになります。
この売渡請求を行使することにより、売買契約は当然に効力を生じ、相続株主はこれを拒むことができません。つまり、相手方が反対しようが、相続株式の売買は有効に成立します。
もっとも、以下の事由によって売買契約は失効します。
・売渡請求から20日以内に売買価格の協議が合意に至らない。
・会社、相続人だれからも裁判所に対して価格決定の申立がなされない。
期間制限
この売渡請求はいつまでもできるというわけではなく、相続があったことを知った日(死亡を知った日)から1年以内に行使する必要があります。
3.売買価格の決定
上述の財源規制の問題はありますが、会社と相続人が合意した金額であれば、売買価格はそれによります。
相続人は株式の売買契約自体は拒否できませんが、価格の交渉はできるのです。
協議をしても価格が折り合わないときは裁判所に価格を決めてもらいます。
この申立は売渡請求日から20日以内にする必要があります。
20日以内にだれからもされない場合は、上述のとおり売買契約そのものが失効します。
なお、価格の協議をしないでいきなり裁判所に価格決定の申立をすることも可能とされていますが、まずは話し合いで決定するべきでしょう。
4.相続人に対する株式の売渡請求でクーデターが可能
上述のとおり売渡請求をするためには、株主総会の特別決議が必要になります。
この決議で実際に売渡請求をする株式の数やその相手方を決めますが、この決議において相続株主は議決権を行使することができません。
たとえば、以下の株式保有割合の会社があるとします。
・創業者A(会長)・・・70%
・Aの長男B(社長)・・・10%
・第三者C(専務)・・・20%
Aが亡くなり、Bが株式を相続しました。Bは80%の株式を保有していることになります。
ここで、残り20%の株式を有する専務Cが、相続人に対する株式の売渡請求の可否を決議に諮りました。
実は、この決議においてBは会社法の規定により議決権を行使することができません。
しかも、今回相続で取得した株式はもちろん、以前から保有している株式(ここでは10%)の議決権についても行使できません。
そのため、相続人に対する株式の売渡請求の行使を総会で決議し、それを可決することがCの意思、判断だけでできてしまう。
70%の株を会社が取得することになりますが、自己株式には議決権はありませんので、結果、オーナー側を経営から排除することも可能となります。
このように、相続人に対する売渡請求の規定は会社乗っ取り(相続クーデター)に利用されることにもなりかねないので、導入にあたっては株主構成や将来的なリスクなどを慎重に検討しておく必要があります。
1つの対策として、オーナー側の意向を汲む安定株主の存在でしょう(信頼できる親族や持ち株会社)。
最適な株主構成、株式保有割合を検討の上、対策をあらかじめ講じておけば乗っ取り防止につながります。
5.まとめ
株式の相続により、思わぬ事態を招くことがあります。
株式の分散や好ましくない株主の存在により、会社の意思決定や事業に影響を及ぼすこともあります。
そのため、場合によっては相続人に対する株式の売渡請求を検討してもよいかもしれません。
ただ、相続クーデターが行われるリスクもあるので、導入にあたっては専門家に相談することをオススメします。