相談事例
今度、亡くなった母の相続人が集まって遺産分割協議を行う予定です。
長女である私は母と、母名義の自宅に長年同居していました。
その自宅には母が亡くなった後も私が住む予定なので、自宅の名義は私がもらいたいと思っています。
他の相続人は長男と次女なのですが、それぞれ遠方に別居していることもあり、自宅の名義は譲ってくれるような話しを以前にしたことがあります。
ただ、書類に実印を押してもらうことになると思うのですが、その際にハンコ代といったものを渡すことがある、と聞いたことがあります。
ハンコ代を渡すとした場合、実際にいくら渡せばよいのか見当がつきません。
ハンコ代に相場のようなものはあるのでしょうか。
1.ハンコ代に相場はある?
金銭のやり取りをしないで遺産分割協議書に実印を押してくれればよいのですが、一方で財産を取得しない相続人に対し、いわゆる「ハンコ代」としてお金を渡すこともあります。
一種のお礼(手間賃といってもいいかもしれません)のようなもので、相続の現場では珍しいことではありません。
では、このハンコ代に何か決まった金額があるのか、ですが、実は特に決まった金額はありません。
5千円で済むケースもありますし、10万円といったケースもありました。
相場のようなものは設定しにくいのです。
なぜなら、相続財産の額や相続人数、それらの者の資産レベル、他の相続人との関係性その他諸々の事情は家々ごとに当然異なるため、「コレ」という金額を決めることは現実的に難しいのです。
本当に気持ちだけのものとして、お心づけとして数千円の商品券の場合もありますし、数万円単位のお金を支払う場合もあります。
モメない遺産分割協議書は?作成の際の注意点、ポイントにて遺産分割協議書について詳しく解説しています。こちらも合わせてご覧ください。
2.ハンコ代、いくらと判断すればよい?
ではそのハンコ代、いくらなのか。
悩ましいところだと思います。
ハンコ代の判断材料としては、相続財産の額や取得する相続人の資力、ハンコ代をもらう相続人の資力、遺産分割協議にどれだけの時間、労力を要したか、などを総合的に考慮して決めると、ただ漠然と決めるよりは決め易いと思います。
相談事例では、ハンコ代を長男、次女に渡すということですが、基本は均等額を払うべきでしょう。
ただ、そうは言っても、やはり金額に納得できない相続人が現れることもありますので、他の相続人に波風を立てないよう、納得がいっていない相続人に対しては多めに支払うことも考えるべきです。
要は、当事者が納得できる金額であることが一番重要です。
3.贈与と認定されないために
注意すべきとしては、ハンコ代が過大であると、贈与と認定され贈与税の課税対象になる可能性もあります。
贈与税の計算方法について詳しくはこちら<贈与税早見表と贈与税の計算方法>をご覧ください。
たとえば、贈与税の基礎控除額110万円を超える金銭給付を伴う場合(法定相続分に相当するハンコ代をわたす、など)は、遺産分割協議書に、
「Aは〇〇〇を取得する代償として、Bに金〇〇〇円支払う」
という文言を入れておきます。
いわゆる代償分割の方法であり、贈与ではないことを明確にしておくべきでしょう。
詳しくは<代償分割のポイント>
4.ハンコを押してくれない
なかには、「ハンコ代をくれなければ実印を押さない」と主張する相続人もいます。
ただ、当然のことながら払う側としても納得いく金額であることが大前提です。
相手方がハンコ代を強行に主張し、その金額が儀礼的な範囲を超えまったく納得のいくものでなければ、それはもはや遺産分割に同意する気はないのかもしれません。
協議不成立として、遺産分割調停も検討すべきでしょう。
詳しくは<遺産分割協議ができない、成立しない場合は?遺産分割調停の解説>
5.まとめ
いわゆるハンコ代の相場、基準額はいくらか。
家族の構成や相続人の数、資産規模など様々な事情から判断します。
ハンコ代の本質はお礼、儀礼的なものです。
そのため、遺産分割協議書に実印を押してくれない可能性の高い相続人がいる場合は、ハンコ代で解決するのではなく、遺産分割方法の1つである「代償分割」を選択するなど別の方法を検討してもよいかもしれません。
結局のところケースバイケースでの対応が必要となりますが、どのよう方法、対応が最善なのか。
ハンコ代をいくらにすればよいか。
迷った際は専門家に相談することをオススメします。