相談事例
私の父が先月亡くなりました。相続人は長男である私と母の2人です。
父は生前、父を被保険者とし、母を受取人とする生命保険をかけていました。
保険料は父が支払っていました。
父が亡くなったため、この保険金は母が受取ったのですが、この度、私の方で事業を起こすことになり、この保険金を利用させてもらおうかと思っています。
母も同意してくれているため、近々、保険金を母からいただくことなりました。
ただし、そのままもらうと贈与となって、贈与税の問題が出てきますので、母が取得するはずだった保険金を私が取得する旨の遺産分割協議をしようと考えていますが可能でしょうか。
そのようにすれば贈与税はかからないと考えましたが、実際のところはどうなのでしょうか?
1.保険金は受取人固有の財産
相談事例のような保険契約内容においては、その生命保険金は受取人の固有の財産となり、したがって被相続人の遺産に含まれません。
遺産ではないということは、遺産分割の対象にはならないということです。
受取人のものなので当然といえば当然です。
したがって、相談事例のケースでは、生命保険金はそもそも遺産ではないため、遺産分割協議の対象とはならず、遺産分割はできません。
そもそも遺産分割の対象にはなりませんが、仮に遺産分割協議の体裁で母親が受け取った保険金を子に渡しても、それは単純に「母から子への贈与」とみられ、贈与税がかかるおそれがあります。
贈与税率について詳しくは<贈与税早見表と贈与税の計算方法>をご覧ください。
2.相続税の課税対象
法務上は保険金は受取人固有の財産となり、遺産とならず遺産分割の対象にもなりませんが、税務上は相続財産とみなします。
法務と税務では考え方が異なるため、要注意です。
したがって、受取人が配偶者となっている場合であっても、保険金は相続税の課税対象とはなります。
なお、生命保険金は残された者の生活保障の意味合いが強いため、政策的な観点から「500万円×法定相続人数」の金額までは非課税となっています。
3.まとめ
特定の相続人を受取人とする生命保険金を、遺産分割の対象とすることはできません。
それは相続人全員の合意があったとしても同様です。
その生命保険金は受取人固有の財産となり、遺産に組み込まれないからです。
また、相談事例のように、いったん受け取った保険金を不用意に他者に移転してしまうと、多額の贈与税が課税されるおそれがあるため注意しましょう。