相談事例
私の父が亡くなったのですが、多額の相続税がかかりそうです。
子は長女である私だけなのですが、私が相続放棄をすれば、父の両親はすでに他界しているのできょうだいに相続権が移るかと思います。
きょうだいは全員で5名いるので相続税の基礎控除額も増えて、相続税を減らせるのではないかと考えておりますが実際はどうなのでしょうか?
1.相続放棄をすると相続人ではなくなる
民法上、相続放棄をするとはじめからその相続の相続人ではなくなります。
したがって、被相続人の有していた権利や義務の一切を相続しません。不動産や預貯金も相続しませんし、借金も相続することはありません。
2.税法上からみた相続放棄
民法上は上述のとおりですが、実は税法上は考え方が異なります。
相続税の基礎控除額は「3000万円+法定相続人の数×600万円」ですが、たとえば法定相続人として子が3人おり、うち1人が相続放棄をしたとしても、税法上、子は3人いるものとして基礎控除は4800万円(3000万円+1800万円)です。
4200万円ではありません。
つまり、相続放棄をしていても相続人の数に加えるということです。
3.基礎控除額を増やすために相続放棄は?
では、相談事例のように相続放棄をして基礎控除額を広くしようと考えたとします。
第1順位の子(1人だけ)が相続放棄し、次順位相続人のきょうだいが5人いる。
基礎控除は3000万円+600万円×法定相続人の数なので、この場合基礎控除額は6000万円となるのか?
しかし、上述のとおり相続税法上、基礎控除の計算において相続放棄はなかったものとみます。
したがって、たとえ先順位の相続人が全員相続放棄をしたとしても、相続税の基礎控除の計算においては影響はありません。
家庭裁判所から相続放棄の審判を受けていたとしても(民法上は有効に相続放棄となっているので権利義務は相続しないが)、基礎控除額は3600万円です。
6000万円とはなりません。
このような取り扱いにしないと相続人側で基礎控除額を自由にコントロールでき(相続放棄は相続人の自由意思でできる)、相続人の恣意的な判断によって税の公平性が損なわれることになるためです。
4.まとめ
相続税の基礎控除額を広げるために相続放棄を選択すること自体、あまりないかもしれませんが、
「国に税を払うくらいなら一族に遺産を残したい」
と考え、相続放棄を選択して基礎控除額を広げようとすることがあるかもしれません。
しかし、相続税法上では相続放棄はなかったものとして扱われます。
想定外の結果となり取り返しのつかないことにもなりますので、要注意です。