成年後見制度は認知症になった本人を財産管理面、身上監護面で保護、サポートする制度ですが、成年後見制度に関して誤解や勘違いされている部分が結構あります。
以下では、その主なものをみていきます。
1.成年後見、誤解・勘違いされている部分
日用品の購入は自由にできる
成年後見人が選任されていても本人は法律上有効に日用品の購入はできます。
なにが日用品にあたるかは人それぞれの生活態様や資産規模によって異なりますので、画一的な判断基準をもうけることは難しいですが、一般的な食料品や日常的に使うもの、交通機関の支払いなどは日用品の購入といえます。
これらの行為まで本人にはできないとなると、過度な制約をかけてしまうことになるからです。
印鑑登録できない
成年後見人が選任されると本人は役所で印鑑登録(実印登録)ができなくなります。
したがって、印鑑証明書の発行もされません。
そもそも印鑑証明書を使うような重要な行為をすることができなくなるため、登録する必要性がなく、また、登録できてしまうと無用の混乱を招くからです。
後見人が選任される前から、すでに印鑑登録していた場合は登録が抹消されます。
注意点は、後見開始から実際に登録が抹消されるまでタイムラグがあるので、その間に取得できてしまうこともないとは言えません。
なお、各自治体の条例によってですが、成年後見人が同行して成年被後見人本人が役所の窓口に行き、登録申請をすれば印鑑登録ができる場合があります。
戸籍には載らない
成年後見人が選任されるとその事実は登記によって公示されますので、本人の戸籍に成年後見人が選任された旨は記載されません。
選挙権は失わない
平成25年7月1日以前は本人には選挙権・被選挙権ともにありませんでしたが同日以降実施の選挙についてはともに有することになりました。
身分行為は自由に行える
婚姻、離婚、子の認知、養子縁組を結ぶなどの身分行為は本人の自由な意思のもとで行うことが当然求められますので、成年後見人が選任されている場合であっても本人が自由に行えます。
当然、成年後見人の同意も不要です。
遺言書を書くことはできる
成年後見人が選任されたとしても、遺言書を書くことはできます。ただし、遺言作成時に15歳以上であって事理弁識能力を回復し、医師2人以上の立ち合いを必要とするなど条件があります。
詳しくは<認知症でも遺言書を書ける?成年被後見人が遺言書を書くには?>
後見申立ての動機、目的が終わっても後見は当然に終了しない
たとえば不動産を売却するために申立てた、遺産分割協議をするために申立てたなどで、売却や協議が終わっても、そこで成年後見人の職務は終了しません。当初の目的を果たしたとしても、本人が死亡するまで、または判断能力が完全に回復するまで後見は続きます。
勝手に辞任できない
成年後見人になったはいいが、やはり自分にはできない、無理だと思っても勝手に辞めることはできません。辞任するには家庭裁判所の許可を要します。
成年後見人を追加で選任してもらうか、成年後見監督人を選任してもらうなどの対応が必要です。
事実行為は行わない
成年後見人は施設入所契約などの法律行為を通じて身上監護を行っていきます。
したがって、食事や排便など身の回りのお世話や介助、介護などを直接的に行う事実行為はできません。
身元保証人や身元引受人、入院保証人にはなれない
成年後見人は身元保証人などにはなれません。成年後見人の本来の職務(財産管理、身上監護)から逸脱していると考えられるからです。
なお、施設入所時に施設側から身元保証人、引受人を要請された場合には、不測の事態にはいつでも対処、対応できる体制を整えている旨を伝えれば、身元保証を不要とできる場合もあります。
ただし、親族が後見人に選任している場合は、後見人としてではなく、親族の立場として、身元保証人などになる場合があります。
医療同意権はない
延命治療や外科手術をする場合、医師からその処置、行為について成年後見人に同意を求めてくることがあります。
本来的には本人の同意を得ることが一番ですが、本人は意思表示ができないことが通常ですので、本人が医療同意の判断をすることは考えられません。
そのため、家族、親族が同意するかどうか、の判断をすることになりますが、家族がいない、連絡が取れないなど、その同意を得ることが困難な場合、代わりに成年後見人が同意を求められることがあります。
しかし成年後見人は医療同意する権限はありません。法律上、成年後見人の権限はあくまで、財産管理権、身上監護権に限られるからです。
ただし、身元保証の場合と同じように親族が後見人に選任している場合は、後見人としてではなく、親族の立場として、医療同意を行うことになるでしょう。
2.まとめ
以上のように、後見制度をはじめとした誤解や勘違いをみてきました。
後見人が選任されると、「戸籍に記載される」といった誤解は、昔の禁治産制度(成年後見人制度の制定によって廃止)のイメージがあるからではないでしょうか。
本来であれば成年後見人を選任していなければならない事案であっても、選任されていないのが現状です。
誤解が払しょくされ、制度利用の敬遠がなくなり、認知症の方の生活面、財産面からサポートできる体制が構築され、後見人のさらなる活躍の場が増えることを期待したいところです。