将来の不安に備える任意後見契約とは?手続きの流れやポイント

1.後見制度には2種類ある

認知症などを患っている方を保護、サポートする制度として、後見制度があります。

この後見制度には「法定後見」と「任意後見」の2種類があります。

法定後見

本人が認知症になってしまい、判断能力を欠いた状態になると、契約や財産管理を適切に行うことができません。

そのような場合に、家庭裁判所へ申立てをすることにより、成年後見人や保佐人などが選任されます。

これを「法定後見」といいます。

詳しくは<親が認知症になったら?成年後見人の申立て方法>

任意後見

一般的に後見と言えば、認知症になっている方をサポートする法定後見をイメージしやすいのではないでしょうか。

ただ、後見制度にはもう1つあり、それがこの「任意後見」といわれるものです。

この制度は、まだ本人の判断能力があるうちに、将来認知症などになった場合に備え、あらかじめ本人を代理する者として「任意後見人」(この時点では任意後見受任者、といいます)を定めておくのです。

そして、本人が認知症などにかかり、意思能力、判断能力を欠く状態になると、任意後見人は正式に就任します。

就任後、任意後見人は本人のために財産管理や契約行為など、任意後見契約に定められた行為について本人を代理して行うことができ、職務を行っていくことになります。

法定後見の場合は、親族やなって欲しい人を後見人候補者と定めて申立てできますが、その候補者が必ずしも選任されるとは限りません。

最終的な人選は家庭裁判所により行われます。

親族ではなく、弁護士や司法書士などの専門家が選任されることが多いです(割合的に7割以上は専門家から選任されています)。

一方、任意後見は、あらかじめ、本人の意中の人物を指定できるため、身近な親族や信頼できる人を任意後見人にすることができ、委任契約の一種といえます。

簡単に言うと

「いまは元気で何も心配していないが、将来認知症になったらどうしよう・・・」

「自分の財産管理や施設に入る際の契約はどうなるのか・・・」

と不安に感じている方が利用する制度です。

2.任意後見の流れ

以下は、任意後見制度手続きのおおまかな流れです。

①任意後見人になってくれる人を決める

まずは、自己の判断能力が不十分になる前に、判断能力が衰えた後に自己の後見事務を担ってくれる人を決めておきます。

任意後見人には法律上、資格制限はありません。

基本的にだれがなっても問題ありませんが、自分が信頼する人物、ちゃんと後見事務を執り行ってくれる人物を選ぶことです。

専門家を選任することも多いです。

また、複数人を選任することもでき、財産が多岐にわたる場合などは複数人選任するといったこともあるでしょう。

例外的に以下の者が任意後見受任者となっている場合は、後述の任意後見監督人選任の審判の時点で不適格と判断されます。

そうなってしまうと選任申立てが却下され、任意後見契約の効力が生じないこともありますので、注意を要します。

 

◆未成年者

◆破産者

◆本人に対し訴訟をした者

◆不正な行為、著しい不行跡その他任意後見人の任務に適しない事由がある者

 

以上の者を除き、だれを選ぶかは本人の選択にゆだねられ、自由に決めて問題ありませ(もっとも、契約なので相手が任意後見人になることについて納得したうえで合意する必要があるのはいうまでもありません)。

②任意後見契約の内容を決める

任意後見人が決まったら次は、実際に認知症などになった後に、どのような行為について代理するか、その後見事務を具体的に決めます。

その内容は、契約なので当事者が相談して自由に決めることができます。

ただし、公序良俗に反するような内容や、身分関係(婚姻、離婚、認知、養子縁組など)の代理については定めることはできません。

自分がどのようなことを重点的に支援してもらいたいか、財産管理なのか、身上監護なのか、を自分の希望や生活状況などに沿って決めると良いでしょう。

なお、任意後見契約には3つの契約形態があります。

 

詳しくは<任意後見契約の3つの契約形態(移行型、即効型、将来型)>

 

③任意後見契約の締結、契約書の作成

任意後見契約書の作成は必ず公正証書による必要があり、公正証書でなければ契約の効力が生じません。

法律のプロである公証人を関与させることによって、その契約が適法、適正かどうかを判断するためです。

そのため、契約前には公証役場との入念な打ち合わせが必要になります。

公正証書遺言の場合と同様に、いきなり公証役場に出向いて作成してくれるわけではないため注意しましょう。

なお、公正証書遺言のように2名以上の証人は求められていません。

④任意後見契約締結後、後見登記される

契約の締結後、公証人は東京法務局に後見登記の依頼をします。

そこから1週間ほどで登記が完了し、任意後見受任者の氏名や代理権の範囲が記載された代理権目録が登記で公示されます。

この時点では差し迫って登記事項証明書を使うことはありませんが、内容に記載ミスがないかの確認をしたければ別途、請求して取得しましょう。

登記事項証明書は郵送でも取得できます。(法務局ホームページ)

⑤任意後見監督人選任の申立て

その後、「判断能力が不十分になってきた」「認知症のおそれがある」と感じたら任意後見受任者は、本人の住所地を管轄する家庭裁判所に任意後見監督人選任の申立てを行います。(裁判所ホームページ)

任意後見監督人とは、任意後見人がちゃんと、契約にしたがって適切に後見事務を行っているかを監督する者です。

この任意後見監督人が選任されると、任意後見契約の効力が生じることになります。

「認知症になったから任意後見人として職務にあたれる」わけではなく、この監督人が選任されてはじめて任意後見人となれます。

そして、任意後見人は代理権の範囲にしたがって後見事務を行っていきます。

監督人は家庭裁判所が選任します。任意後見人や本人が選べるわけではありません。

基本的には弁護士や司法書士などの専門家がなります。

⑥任意後見人の職務開始

任意後見監督人の選任後、任意後見人の仕事が開始されます。

任意後見人は後見登記事項証明書を金融機関などに届出たり、本人の財産管理を行っていきます。

当然、代理権目録に書かれた行為の範囲内でしか代理できません。

範囲外のことは任意後見人として代理できないため、あとで後悔しないよう契約時点で不備のないもの、希望に沿ったものを作り上げておく必要があります。

3.まとめ

任意後見制度について、簡単に制度の概略と手続きの流れを解説しました。

この制度を利用すれば、自分の判断能力があるうちに信頼できる者を後見人と定めておくことができるため、安心を得られることでしょう。

当然メリットがあればデメリットもありますが、利用した方がよいかどうかを迷っているのであれば、まずは専門家に相談することをオススメします。

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