法定相続分で共有名義の相続登記をした後に、遺産分割協議が成立し、特定の相続人に遺産分割による所有権移転登記(更正登記)をするケースがあります。
以下では、この場合に贈与税がかかるのかどうか、を解説していきます。
1.法定相続登記をしたあとに遺産分割はできる?
以下のような理由で、法定相続分での登記がされることがあります。
・単純に相続人間で平等にできるから
・遺産分割協議の成立に時間がかかるから
・書類が少なく済み、手続きが比較的簡単にできるから
一方で、法定相続分で登記したところ、後日話し合った結果、特定の相続人が相続した方が都合がよい、となった場合。
法定相続分で相続登記をした後であっても、その不動産を含めての遺産分割協議を行うことは可能です。
2.贈与税がかかる?
法定相続登記をした後に遺産分割協議が成立すれば、共有の登記名義を特定の相続人名義に変更することになりますが、ここで問題となってくるのが贈与税。
つまり、
・法定相続分での相続登記の後に遺産分割を行っているため、それは相続人間で贈与があったといえ、贈与税の課税対象となるのか
または
・法定相続分での相続登記はそもそも遺産分割で行われたものでなく、その後に遺産分割が行われても相続人間での贈与とはいえず、贈与税の課税対象とはならないのではないか
という問題があります。
結論から言うと、法定相続登記後に遺産分割をしたとしても贈与税はかかりません。
なぜなら、最初にした登記が遺産分割の結果ではなく、ただ単に法定相続分で登記されているというだけであれば、遺産分割協議は一回しか行われていません。
一回だけの遺産分割協議の結果、特定の相続人が相続するということは、まさに通常の相続と変わるところはないのです。
贈与、とは認定されないのです。
したがって、法定相続分での登記の後に遺産分割協議が成立してその内容どおりに移転登記をしたとしても贈与税はかかりません。
3.法定相続分の登記が実は遺産分割の結果だったら?
ただし、最初にした法定相続分での登記が実は遺産分割協議の結果であって(協議をしたうえで、結果的に法定相続分で相続することになった)、その後さらに遺産分割協議をやり直した場合は要注意です。
一定の場合であれば、遺産分割協議をやり直すこともできますが、そのやり直した後の内容で遺産分割による移転登記をすると、贈与税がかかってしまう可能性があります。
なぜなら、この場合は遺産分割を2度しており、2度目の遺産分割はもはや相続人間の贈与と同じである、という判断がされるからです。
遺産分割協議のやり直しについて、詳しくは<遺産分割協議はやり直せる?遺産分割の法定解除、合意解除>
4.登記簿上からは判別できない
贈与にあたるかどうかは実質で判断します。
つまり、最初の登記は法定相続分での登記だとしても、それが遺産分割協議の結果の登記なのか、単純に(協議の結果ではない)法定相続分での登記なのかが登記簿上からでは判断、判別できません(登記簿に遺産分割協議書が載るわけでもありません)。
したがって、遺産分割を原因として名義変更登記をしていると、税務署からそれは贈与である(贈与税の課税対象となる)と指摘される可能性もあります。
運悪く指摘されてしまった場合、
◆最初の法定相続分の登記は遺産分割を行った結果の登記ではないこと
◆遺産分割による移転登記をしているが、それは遺産分割のやり直しではないこと(遺産分割は1度しかしていないこと)
を明確に伝えることで、贈与税はかからないでしょう。
5.まとめ
法定相続分での相続登記をした後に、遺産分割が成立して遺産分割を原因とする所有権移転登記(更正登記)をしても、贈与税はかかりません。
遺産分割は一回しかされておらず、それは通常の相続と何ら変わることはなく(遺産分割のやり直しではない)、相続人間で贈与がされているわけではないからです。
遺産分割のやり直しは相続人間の贈与と認定され、贈与税の対象になってしまう場合があるため要注意です。
※法定相続分での登記後に遺産分割によった場合の登記方法につき、法改正の影響で所有権移転登記ではなく、所有権更正登記で可能との通達が出されました(税金面で有利)。また、共同申請である必要があったところ、単独申請が認められました(負担軽減)。