1.相続放棄をしても管理が必要?
令和3年の相続法改正により、民法第940条について、あらたなルールが始まります。
現行の民法第940条の内容は簡単にいうと次のとおりです。
相続人であった者は、その放棄により相続人となった者(たとえば、子が全員相続放棄した結果、被相続人の兄弟姉妹が相続人となる場合が典型)が相続財産を管理できるようになるまで、自分の財産と同程度の管理義務を負う
この規定により、たとえば相続放棄をした後であっても被相続人が所有していた空き家や車を管理していかなければならないのか、といった問題がありました。
詳しくは、
をご覧ください。
相続放棄を行ったとしても、場合によっては想定外の負担を強いられる可能性があったのです。
また、この規定自体、あいまいな部分があるので、実務上、判断に迷うケースも珍しくはありませんでした。
2.管理しなくてもよくなる?
そこで、今般の相続法改正に至りました。改正法は、以下とおりです。
<改正後の第940条>
相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第952条第1項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。
第2項 省略
この条文のなかで、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているとき、という部分が重要になります。
たとえば、相続財産のなかに空き家がある場合。
改正前であれば相続放棄後、行ったこともなければ見たこともない場合であっても、相続放棄をした者はその空き家を自分の財産と同程度の注意義務(管理義務)を負うことがありました。
これは相続放棄をした者には酷といえます。
改正後は、相続財産を現に占有していなければ、相続放棄をした後であっても、940条の義務を負うことはありません。
当然、行ったこともないような空き家を現に占有しているわけはないので、相続放棄した者は、何かしらの義務を負うといったことはなくなります。
3.だれに対して責任を負う?
改正前においては、条文上はだれに対して責任を負うのか(ほかの相続人に対してか、それとも第三者も含めてか)が明確ではありませんでしたが、改正法では相続人又は第952条第1項の相続財産の清算人に対して、との書きぶりとなりましたので、責任の相手方が明確化しました。
4.改正法はいつから開始される?
この新制度、施行日は令和5年4月1日で、施行日後に相続放棄されたケースで適用されます。
したがって、施行日前に相続放棄した相続人に対しては従来どおりの管理責任を負うので要注意です。
5.まとめ
「相続放棄をした後も、何かしらの負担や義務を負うことはありますか」とのご質問を受けることがありましたが、相続法改正により、放棄後において相続財産を現に占有していなければ、940条の義務を負うことはなくなりました。
また、責任を負う場合であっても、だれに対して負うのかが明確となりました。
相続放棄者には有利な改正となりましたので、今後も一層、相続放棄の件数が増加することが予想されます(現状、相続放棄の件数は年間20万件以上)。