
1.未払い給与を受け取ると?
被相続人の遺産を処分してしまうと相続放棄をすることができなくなります。相続を承認すること、法定単純承認にあたるからです。
問題になりやすいのが、死亡退職金の扱いです。
勤務していた方が亡くなった場合、死亡退職金が支給されることがあります。
この死亡退職金ですが、会社の就業規則に退職金規定として受取人(支給先)が定められていることが通常です。
規則に、死亡退職金の受取人が遺族となっていれば、その死亡退職金は相続財産ではなく、遺族の固有の財産となるため、受け取ったとしても(使っても)相続放棄はできます。
一方で、受取人が被相続人となっている場合は、相続財産となるので、遺族が受取り、使ってしまうと相続放棄はできなくなります。
では、死亡するまでに発生した「未払いの給与」はだれものか。
給与は被相続人が勤めて稼いだのものです。しかし、当然、被相続人はすでに発生している給与、未払い給与を受け取ることはできません。
ここで、会社の就業規則を確認します。
死亡退職金と同様に、就業規則に死亡に伴う未払い給与の受取人、支払い先が規定されていれば、それに従うことになります。
支払い先が遺族
支払い先が遺族であれば、未払い給与は遺族の財産となります。
受け取って、自分のために使ったとしても相続放棄はできます。
支払い先が被相続人もしくは規定がない
支払い先が被相続人となっている、もしくは何も規定がないのであれば、被相続人の遺産となります。
受け取り、自分のために使ってしまうと、法定単純承認となり相続放棄ができなくなります。
なお、死亡退職金と異なり、死亡に伴う未払い給与については、受取人について明確な規定、規則を置いている会社は少ないのではないでしょうか。
会社側としても、事務処理上の問題などで、早々に支払っておきたい事情がある場合、相続人に受取を促すケースがありますが、すぐには受け取らず、まずは慎重に検討する必要があります。
2.間違って受け取った、知らずに受け取った
未払い給与を受け取ってしまったら。
「その時は、相続放棄するつもりはなかったから受け取った」
「受け取っても問題はないと思った」
受け取ったことにより、相続放棄が一切できなくなるのでしょうか。
いざ相続放棄をする際に何か問題が出てくるのでしょうか。
未払い給与を受け取り、かつ、使ってしまうと上述のとおり相続の法定単純承認にあたります。
相続放棄をすることはできません。
一方で、受け取ったが使ってはいない場合。
単に間違って受け取ってしまった場合、何も知らずに受け取ってしまった場合です。
その場合は、受け取った給与については一切、手を付けないで銀行口座に適切に保管しておくことです。
適切に保管している限り、法定単純承認にはあたりません。
できれば、自分の普段使っている生活用の口座ではなく、
・普段まったく使っていない口座
・新たに開設した口座
などに入れて、そっくりそのまま保管しておくことをオススメします。
そうしておかないと、口座履歴上、自分のお金を使ったのか、それともその未払い給与分を使ったのかが判然としなくなるからです。
なお、保管していた給与については、相続放棄後、次順位の相続人に引き継ぐことになります。
3.まとめ
相続放棄をする(考えている)場合、基本的に被相続人の遺産に手を付けてはいけません。
この点を理解したうえで、被相続人が勤め人であれば、未払い給与の問題が出てきます。
死亡に伴う未払い給与について、まずは、勤め先に支払先、受取人がだれになっているかを確認しましょう。
相続人が支払い先になっているのであれば、受け取り、使ってしまっても問題はありませんが、支払い先が被相続人やそもそも規定がない場合は、受け取らないことです。
もっとも、受け取ったとしても直ちに相続放棄ができなくなるわけでありませんが、
「受け取ってしまったけど、どうすればよい?」
「相続放棄をしたいけどマズい?」
このような場合、あわてずに専門家に相談することをオススメします。